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環境学

2021.10.25

地球規模での海洋の富栄養化オンライン評価ツール「Global Eutrophication Watch」

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学宇宙地球環境研究所の石坂 丞二 教授は、公益財団法人環日本海環境協力センター(NPEC)のMaúre Elígio de Raús嘱託研究員と寺内 元基 主任研究員とともに、Google LLCのメンバーを入れた共同研究チームで、地球規模での海洋の富栄養化オンライン評価ツール「Global Eutrophication Watch」を開発し、オンライン公開しました。
<Global Eutrophication Watch公開先アドレス>
https://eutrophicationwatch.users.earthengine.app/view/global-eutrophication-watch

世界中の多くの沿岸域では、人間活動によって窒素やリンなどの栄養分が過剰に供給されています。このような海域では、植物プランクトンが多く増殖し過ぎることで赤潮が起きたり、水中の酸素が少なくなったりして、環境の悪化をまねくことが知られており、この現象は人為的な富栄養化と呼ばれています。一方で、日本の多くの沿岸域では、長年富栄養化が問題であったため、人為的に栄養分の供給を減少させていますが、最近はむしろ魚類生産などの減少が起きていることから、逆に貧栄養化している可能性が指摘されています。また地球の温暖化によって、海洋の深層から栄養分の供給が少なくなることで、さらに広い海域でも貧酸素化が起きつつある可能性も指摘されています。このような富栄養化(貧栄養化)が、世界のどこで起きているかを知ることは、人間活動の海洋への影響を理解し、それを改善するために必要であり、SDGsのゴール14「海の豊さを守ろう」の達成に重要です。

「Global Eutrophication Watch」では、蓄積された地球全体の海洋や大きな湖の表層の植物プランクトンの量(クロロフィルa濃度)を、「多い・少ない」と「増加・変化なし・減少」の6つの類型に分けます。この類型によって、地球全体の海域のどこが、富栄養化(貧栄養化)しているのか、あるいは富栄養化(貧栄養化)する傾向にあるのかを、予備的に判別することが可能であり、詳細な調査の必要性を検討するための指標に利用できます。このシステムはGoogleが提供するクラウドベースのビックデータ解析プラットフォーム「Google Earth Engine」を利用しています。現状で地球全体では2003年から2020年までの衛星データ、日本周辺では1998年から2020年まで、特に黄海・東シナ海について改良された衛星データが利用できます。

この成果は、2021年10月22日18時(日本時間)英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

クロロフィルa:植物プランクトンの持つ光合成色素で、植物プランクトンの全体量の指標
SeaWiFS:アメリカ宇宙航空局が1997年に打ち上げ、2010年まで活動した海色のセンサー(広域観測走査計)
MODIS:アメリカ宇宙航空局が2002年に打ち上げ、現在も活動している衛星Aquaに搭載されている海色のセンサー(中分解能撮像分光放射計)

 

【論文情報】

Maúre, E.R., G. Terauchi, J. Ishizaka, N. Clinton, M.DeWitt(2021) Globally Consistent Assessment of Coastal Eutrophication, Nature Communications, 12, 6142 doi:10.1038/s41467-021-26391-9.

URL: https://www.nature.com/articles/s41467-021-26391-9