TOP   >   化学   >   記事詳細

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の佐々木 拓也 助教、野田 航希 大学院博士前期課程学生、ニコ アレクサンダー ガイダ特任助教 (当時)、丹羽 健 准教授、長谷川 正 教授の研究グループは、「チムニー・ラダー構造注1)」(チムニー:煙突、ラダー:階段)と言われる結晶構造を持ち、室温で強磁性を示す無機化合物を、ギガパスカル領域の高圧力下での合成法を用いて発見しました。
周期律表の4〜9族元素Mと13〜15族元素Xからなる化合物MmXx(1.25 < x/m < 2)は、チムニー・ラダー構造(Chimney・Ladder構造)と呼ばれる結晶構造を持つ物質が数多く存在します。この構造はM原子の作る正四角柱状煙突(チムニー)の中を、X原子の作る梯子が螺旋階段状(ラダー)に上っていくような特異な原子配列をとります。これらの化合物は、従来は主に熱電材料特性について精力的に研究されてきました。本研究では、約15ギガパスカル(約15万気圧)という高い圧力下でクロムとゲルマニウムからなる無機化合物を合成することにより、世界で初めて室温以上で強磁性を示す「チムニー・ラダー化合物」を創製することに成功しました。さらに、一連の化合物を系統的に創製して、強磁性転移温度と「チムニー・ラダー構造」の副格子注2)構造との相関を解明するとともに、これらの物質はすべて軟磁性を示すことを明らかにしました。これらの成果により、本物質群の新しい研究の進展と材料・デバイス応用への展開が期待されます。
本研究結果は、2021 年9月16日付米国化学会の学術専門誌「Inorganic Chemistry」電子版に掲載されました。
本研究は、文部科学省・科学研究費助成事業 新学術領域研究「機能コアの材料科学」の支援を受けて実施されました。また、放射光実験は、あいちシンクロトロン光センター注3)の共用利用課題で行われました。

  

【ポイント】

・世界で初めて室温以上で強磁性を示す「チムニー・ラダー化合物」を発見。
・一連の化合物における強磁性転移温度と「チムニー・ラダー構造」の副格子構造との相関を解明。
・一連の化合物の磁化過程と軟磁性状態の解明。
・「チムニー・ラダー化合物」に関わる学術研究の新展開と材料・デバイスへの応用の可能性を開拓。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)チムニー・ラダー構造:
周期律表の4〜9族金属と13〜15族半金属元素がからなる化合物が多く取る構造.金属原子が正四角状煙突(チムニー)の中を半金属元素の作る梯子がらせん階段(ラダー)状に昇っていくような構造。

注2)副格子:
結晶構造の中で特定の元素からなる部分的な格子。チムニー・ラダー構造では金属チムニー副格子と半金属ラダー副格子の2つに分けられる。

注3)あいちシンクロトロン光センター:
愛知県瀬戸市の「知の拠点あいち」内に設置された放射光実験施設。

  

【論文情報】

雑誌名:Inorganic Chemistry
論文タイトル:Pressure-Tunable Crystal Structure and Magnetic Transition Temperature of the Nowotny Chimney-Ladder CrGeγ Phase
著者:Takuya Sasaki, Koki Noda, Nico Alexander Gaida, Ken Niwa, Masashi Hasegawa 
Department of Materials Physics, Nagoya University
DOI: 10.1021/acs.inorgchem.1c01887
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.inorgchem.1c01887

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 長谷川 正 教授

http://highpressure.mp.pse.nagoya-u.ac.jp/index.html