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工学

2021.11.24

環境にやさしい「温めると縮む」新材料発見 ~電子デバイス分野を中心に幅広い応用に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の竹中 康司 教授、門脇 義史 大学院生、岡本 佳比古 准教授らの研究グループは、「温めると縮む」新しい材料を発見しました。この材料は、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、リン(P)を主成分とした酸化物であり、低コストで環境親和性が高いことが特徴です。
通常、材料は温度が上がると体積が大きくなりますが(「熱膨張」注1)という)、ごく稀に温度が上がると体積が小さくなる材料があります。この性質は「負熱膨張」注2)と呼ばれ、熱膨張制御の役割が期待されます。
本研究では、ピロリン酸亜鉛(Zn2P2O7)が132℃で示す構造相転移注3)が大きな体積変化を伴い、高温相が低温相に比べて1.8%小さくなることに着目しました。Znの一部をMgで置換することで、-10~80℃の温度範囲で連続的に体積変化を生じさせ、この温度で-60 ppm/℃を超える大きな負の線膨張係数を実現しました。この負熱膨張は、これまで知られている代表的な巨大負熱膨張材料、例えばビスマス-ニッケル酸化物と比べても同等の巨大なものです。また、電子デバイス分野はじめ、情報通信や光学、精密プロセスなど、広い産業・技術分野で、計測・加工精度の飛躍的向上や性能安定化、機器の長寿命化等に貢献すると期待されます。
本研究成果は、2021年11月17日付アメリカ科学誌「Applied Physics Letters」に掲載されました。
本研究は、文部科学省・科学研究費助成事業 基盤研究(S)および基盤研究(A)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・ピロリン酸亜鉛(Zn2P2O7)の亜鉛を一部マグネシウムで置換することで、負熱膨張を実現。
・巨大な負の熱膨張を、低コストで環境親和性が高い元素で実現。
-微粒子化も可能で、電子デバイスはじめ様々な産業分野で熱膨張制御に期待-
・本研究成果をもとに技術移転の取り組みを進めており、2022年早々に試験供給可能。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)熱膨張
温度の上昇に伴い物質・材料の体積が大きくなる現象のこと。「パウリの排他原理」という自然法則により、原子同士は極端に近づくことが許されない。このため、温度が上昇し原子の熱振動が大きくなると、反発力を受け、徐々に原子間の距離が拡がる。これが熱膨張である。自然法則に由来するため、避けがたいと考えられている。
固体材料の熱膨張は線熱膨張ΔL/L = [L(T) L(T0)]/L(T0)で評価される。その温度微分、すなわち線熱膨張の傾きが、α(T)=(dL/dT )/L(T0)で定義される線膨張係数であり、熱膨張の温度変化に対する割合を意味する。ここで、Tは温度、T0は基準温度、L は温度Tでの長さである。方向依存性がない等方的な材料の場合、線熱膨張は本質的に体熱膨張を表し、ΔV/V= 3ΔL/Lの関係にある(V :体積)。

 

注2)負熱膨張と負熱膨張材料
通常とは逆に温度が上昇すると体積が小さくなることを負熱膨張、負熱膨張を示す材料を負熱膨張材料と呼ぶ。これらは、ごく稀に存在する。負熱膨張材料は、通常の材料と組み合わせることで材料の熱膨張を特定の値、例えばゼロにできるため、熱膨張制御材料として工業的にきわめて価値が高い。

 

注3)構造相転移
温度、磁場、圧力などの物理パラメータの特定の値を境に、物質の物理的状態が変化する現象のことを一般に相転移という。典型的には、水が0℃を境に固体(氷)から液体(水)に変化する融解などの現象がある。物質そのものが変化する化学変化とは異なる。Zn2P2O7では、132℃で結晶構造が変化し、それにともない、高温相で体積が小さくなる。こういった相転移を構造相転移という。

 

【論文情報】

雑誌名:Applied Physics Letters 119 (2021) 201906.
論文タイトル:Structural phase transition and giant negative thermal expansion in pyrophosphate Zn2-xMgxP2O7
著者:Y. Kadowaki, R. Kasugai, Y. Yokoyama, N. Katayama, Y. Okamoto, and K. Takenaka, Department of Applied Physics, Nagoya University
DOI:10.1063/5.0073761
URL:https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0073761

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 竹中 康司 教授

http://mag.nuap.nagoya-u.ac.jp/HP.html