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医歯薬学

2022.01.24

凝固波形解析を応用したフィブリノゲンの"質"を評価する新しい臨床検査法を開発 〜日常検査で利用可能かつ追加コスト不要の 新規スクリーニング検査〜

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学医学部附属病院 医療技術部 臨床検査部門の鈴木 敦夫(すずき あつお)主任臨床検査技師、輸血部の鈴木 伸明(すずき のぶあき)講師、松下 正(まつした ただし)教授らの研究グループは、血中フィブリノゲンの“質”を評価することが可能な新しい臨床検査法を開発し、シスメックス株式会社との共同研究で自動分析装置による解析を可能とすることに成功しました。
フィブリノゲンは、止血に働く極めて重要なタンパク質の一つであり、フィブリンとよばれる止血に必要な「糊」となる素です。先天的あるいは後天的な要因により、フィブリノゲンの質(機能)に異常をきたすことがあり、多くは無症候ですが稀に出血症状や血栓症を引き起こします。現在、術前検査等のスクリーニング検査として広く使用されているフィブリノゲンの測定法(トロンビン時間法)は、血液中のフィブリノゲンの量を捉えることができますが、フィブリノゲン自体の“質”を評価することはできません。したがって、正確な診断がなされない潜在的な患者さんが一定数存在するということが考えられています。
今回開発した検査法は、「凝固波形解析」と呼ばれる新たなデータ解析手法による分析法を、日常検査として使用しているトロンビン時間法に応用し、解析ソフトウェアとして新しく設計したものです。この方法は、既存の測定に基づいて実施可能であり、したがって新たな測定コストを要さず、かつ速やかにフィブリノゲンの“質”を示す指標を算出することができます。日常検査で生じた患者さんの残検体を使用し、この検査法の性能を評価したところ、感度(疾患をもつ人が検査で陽性[=疾患あり]と判断される割合)が 96.6%以上、特異度(疾患を持たない人が陰性[=疾患なし]と判断される割合)が 100%となり、極めて高い精度をもつことが分かりました。
この新しい臨床検査法は、検査に使用する自動分析装置に搭載可能な機能として、すでに日常検査への利用が計画されています。今後、さまざまな施設での検査が可能となり、潜在的な患者さんの発見につながることが大いに期待されます。
本研究成果は、学術雑誌「Scientific Reports」の電子版(2022 年 1 月 21 日版)に掲載されました。

 

【ポイント】

フィブリノゲンは、止血に働く極めて重要なタンパク質の一つであり、フィブリンとよばれる止血に必要な「糊」となる素ですが、先天的あるいは後天的な要因により、その質に異常をきたすことがあり、多くは無症候ですが稀に出血症状や血栓症を引き起こします。
現在、術前検査等のスクリーニング検査として広く使用されているフィブリノゲンの測定法(トロンビン時間法)は、血液中のフィブリノゲンの量を捉えることができますが、フィブリノゲン自体の“質”を評価することはできないことが大きな課題となっています。
本研究により、トロンビン時間法による測定データを元に解析を行うことで、追加の検査コストを要さず、かつ高い精度をもってフィブリノゲンの機能異常症を検出することが可能となりました。
この新しい検査法(解析ソフトウェア)は、今後、日常検査での利用が計画されており、さまざまな施設での検査が可能となることで潜在的な患者さんの発見につながることが大いに期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Development and validation of a novel qualitative test for plasma fibrinogen utilizing clot waveform analysis
著者:Atsuo Suzuki1, Nobuaki Suzuki2, Takeshi Kanematsu3, Sho Shinohara4, Hiroshi Kurono4, Nobuo Arai4, Shuichi Okamoto3, Naruko Suzuki5, Shogo Tamura6, Ryosuke Kikuchi1, Akira Katsumi7, Tetsuhito Kojima8, and Tadashi Matsushita2,3
所属:1 Department of Medical Technique, Nagoya University Hospital
2 Department of Transfusion Medicine, Nagoya University Hospital
3 Department of Clinical Laboratory, Nagoya University Hospital
4 Sysmex Corporation
5 Department of Hematology-Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine
6 Division of Cellular and Genetic Sciences, Department of Integrated Health Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine
7 Department of Hematology, National Centre for Geriatrics and Gerontology
8 Aichi Health Promotion Foundation
DOI:10.1038/s41598-021-04464-5

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_Rep_220121en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 鈴木 敦夫 主任臨床検査技師

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/labmed/