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人文学

2022.01.27

旧石器時代の石材利用の変化を解明 ~小型石器と滑らかなチャート石材の結びつき~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の須賀 永帰 博士後期課程学生と一ノ瀬 菜月 博士前期課程学生、名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の束田 和弘 准教授と門脇 誠二 講師らの共同研究グループは、旧石器時代注1)の現生人類(ホモ・サピエンス)が使用していた石器石材の変化を明らかにしました。
私たち現生人類は20万年前頃にアフリカで出現しましたが、5~4万年前頃にユーラシアへ拡散しました。その一方、各地にいたネアンデルタールなどの旧人は絶滅しました。研究グループは、現生人類がユーラシアに拡散した起点となった、中東のヨルダンにおいて旧石器時代の遺跡群を調査し、そこで収集した石器の石材(チャート注2))について分析しました。その結果、石器が次第に小型化した上部旧石器前期(4~3万年前頃)に使われた石器石材は、表面が滑らかで透明度が高い傾向を明らかにしました。この特徴を持つチャートは、小型石器注3)の製作に適していたと考えられます。
石器の形態や製作技術の変化に合わせて石材の選択を変えた行動は、当時の人類の技術行動の進化や環境適応のプロセスを明らかにするうえで、重要な意味を持つものと考えられます。
本研究成果は、2022年1月13日付オランダElsevier社の科学誌「Archaeological Research in Asia」にオンライン公開されました。
この研究は、文科省科研費 基盤研究A(2016~2020)と日本学術振興会 特別研究員奨励費(2021~2023)の支援の下で行われたものです。

 

【ポイント】

・アフリカで出現した現生人類(ホモ・サピエンス)が、5~4万年前頃にユーラシアへ拡散した起点となった中東で、中部旧石器時代から上部旧石器時代(6~3万年前頃)の遺跡から出土した石器資料を対象に、その石器石材(チャート)の変化を分析した。
・上部旧石器時代前期(4~3万年前)の石器資料において、同じチャートでも表面が滑らかで透明度の高いチャートの割合が大きく上昇することが明らかになった。
・増加した石器石材は、小型石器の製作に適した特徴を持っていると考えられる。石器の形態や製作技術に合わせて石材の選択を変える行動は、当時の人類の技術行動の進化や環境適応、人口増加のプロセスを解明する上で重要な記録になる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)旧石器時代:
人類史上はじめて石器が登場した約300万年前から約1万年前までの時代。野生の動植物を食料とする狩猟採集による生活が行われていた。中東では、ネアンデルタール人などの古代型人類と現生人類が共存した中部旧石器時代後期(7.5~5万年前)、古代型人類が絶滅した時期である上部旧石器時代初期(5~4万年前)、現生人類がさらに増加した上部旧石器時代前期(4~3万年前)に区分される。

 

注2)チャート:
ほとんど極細粒の石英粒子から構成される堆積岩。その見た目は様々で、中東だけでなく世界中の旧石器時代の遺跡で石器の材料として用いられている。

 

注3)小型石器:
長さ5cm未満、幅1cm程度でカミソリの刃のような打製石器。柄にはめられて用いられた。石器用語では、小石刃(しょうせきじん)や細石器(さいせっき)と呼ばれる。

 

【論文情報】

雑誌名:Archaeological Research in Asia
論文タイトル:Investigating changes in lithic raw material use from the Middle Paleolithic to
the Upper Paleolithic in Jebel Qalkha, southern Jordan
著者:Eiki Suga(須賀永帰)a, Natsuki Ichinose(一ノ瀬菜月)a, Kazuhiro Tsukada(束田和弘)b, Seiji Kadowaki(門脇誠二)b, Sate Massadeh c, Donald O. Henry d
a 名古屋大学大学院環境学研究科
b 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科
c ヨルダン考古局
d タルサ大学人類学科

DOI: 10.1016/j.ara.2021.100347
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352226721000933

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館/大学院環境学研究科 門脇 誠二 講師
http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html