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生物学

2022.02.14

完璧を目指すならじっくり時間をかけて(植物の細胞でも) ~植物の気孔の幹細胞非対称分裂から最終対称分裂への転換を担う、細胞周期のブレーキ役の発見~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の鳥居 啓子 主任研究者/客員教授(アメリカテキサス大学オースティン校教授)、名古屋大学高等研究院のスンキ ハン 元YLC特任助教らの研究グループは、植物の気孔の幹細胞非対称分裂から最終対称分裂への転換を担う、細胞周期のブレーキ役を発見し、非対称分裂の細胞周期のみを減速させる仕組みを明らかにしました。さらに、この仕組みが、正常な形の気孔の完成に必須であることを示しました。 
私たちヒトなど動物細胞では、細胞周期の厳密な制御は、細胞の増殖やがん化と大きく関わっています。本研究から、動物細胞と全く異なる分裂様式の植物細胞でも、増殖から分化への転換時には同様の制御が行われることが分かりました。さらには、細胞周期の速度調節によって、植物細胞の形、大きさ、アイデンティティーを操作できる可能性も示唆しています。
本研究成果は、2022年2月11日午前1時(日本時間)付アメリカ学術誌「Developmental Cell」のオンライン先行版(雑誌3月14日号)に掲載されました。
本研究は、平成29年度から始まった文部科学省新学術領域研究「植物多能性幹細胞」および名古屋大学高等研究院Young Leaders Cultivationプログラム支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

気孔は、陸上植物のガス交換と水分調節を担っており、植物の成長と生存に必須な細胞装置である。気孔は、前駆体となる細胞が幹細胞的な増殖分裂を繰り返した後で、一回だけ厳密に対称分裂することにより完成するが、増殖分裂と最終の対称分裂に切り換わる仕組みは分かっていなかった。
本研究では、細胞周期の蛍光多色可視化プローブを用いたライブイメージングによって、気孔の幹細胞の非対称分裂にくらべて、気孔を完成させる対称分裂が遅いことを発見した。

 

● 気孔の前駆体の増殖から分化への切り換える司令因子MUTEは、細胞周期抑制因子であるSIAMESE RELATED4(SMR4)を直接誘導し、SMR4が細胞周期G1期を減速させることが分かった。
● SMR4は、気孔幹細胞の非対称分裂時に働くG1期サイクリンD3;1に直接結合し、その作用を阻害するが、MUTEによって誘導され対称分裂を引き起こすG1期サイクリンD5;1を阻害できないため、対称分裂が起こり、気孔が完成する。
● 気孔幹細胞初期にSMR4を働かせ初期の非対称分裂を無理やり減速させると、表皮細胞のような歪んだ気孔が完成した。そのため、初期の速い分裂速度が気孔系譜のアイデンティティーに重要であると推察される。

"Video S1. Cell cycle marker PlaCCI during representative ACD and SCD in wild-type cotyledon epidermis, related to Figures 1 and S1,Soon-Ki Han et al.,Developmental Cell, 2022, https://doi.org/10.1016/j.devcel.2022.01.014."

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:Developmental Cell
論文タイトル:Deceleration of the cell cycle underpins a switch from proliferative to terminal divisions in plant stomatal lineage
著者:Soon-Ki Han, Arvid Herrmann, Jiyuan Yang, Rie Iwasaki, Tomoaki Sakamoto, B?n?dicte Desvoyes, Seisuke Kimura, Crisanto Gutierrez, Eun-Deok Kim, Keiko U. Torii (下線、名古屋大所属)
DOI:10.1016/j.devcel.2022.01.014
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1534580722000399?via%3Dihub

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。名古屋大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させ、新たな学問領域であるストライガ、植物ケミカルバイオロジー研究、化学時間生物学(ケミカルクロノバイオロジー)研究、化学駆動型ライブイメージング研究の4つのフラッグシップ研究を進めています。ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行う「ミックス・ラボ、ミックス・オフィス」で化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 鳥居 啓子 主任研究者/客員教授(米国テキサス大学オースティン校 教授)   

https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/members/k-torii/