TOP   >   数物系科学   >   記事詳細

数物系科学

2022.02.15

自発的回転対称性の破れの発現機構の新発見 ~ツイスト2層グラフェンにおける複合自由度の重要性~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の大成 誠一郎 准教授、紺谷 浩 教授らの研究グループは、ツイスト2層グラフェン注1)における、自発的回転対称性の破れの発現機構を新たに発見しました。
2層のグラフェンをわずかに回転させて積層したツイスト2層グラフェンは、クーロン相互作用や電子数の制御可能な、新しい強相関電子系注2)です。魔法角と呼ばれる1.1°回転させたツイスト2層グラフェン(MATBG)において、回転対称性が自発的に破れたネマティック秩序注3)が観測されました。近年、強相関電子系において、高温超伝導のメカニズムに関係すると考えられているネマティック秩序に注目が集まっています。本研究では、MATBGのネマティック秩序の発現機構が、従来の強相関電子系には存在しない、バレー注4)自由度とスピン注5)自由度を複合した、新規自由度の揺らぎ注6)の干渉であることを発見しました。
このことは、ネマティック秩序近傍で発現する、MATBGの超伝導状態の起源の解明及び、強相関電子系高温超伝導体の超伝導転移温度の向上に繋がると期待されます。
本研究成果は、2022年2月9日付アメリカ科学誌「Physical Review Letters」に掲載されました。
本研究は、科学研究費助成事業(JP19H05825, JP18H01175, JP17K05543)の支援のもとで行われたものです。
 

 

【ポイント】

 

・魔法角と呼ばれる1.1°回転させたツイスト2層グラフェン(MATBG)における、ネマティック秩序の発現機構を発見した。
・このネマティック秩序は、SU(4)対称性注7)に起因する、バレー+スピン複合自由度の揺らぎ間干渉機構により引き起こされることを発見した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ツイスト2層グラフェン:
 炭素のハチの巣格子からなるグラフェンを、2層わずかに回転させて積層した物質。

 

注2)強相関電子系:
 クーロン相互作用が強い電子系、低温で様々な秩序相が現れる。

 

注3)ネマティック秩序:
 結晶本来が持つ回転対称性が破れる秩序。元来は液晶の秩序を表す用語。

 

注4)バレー:
 グラフェン等の電子に特有な内部自由度?。MATBGでは、?=±1の2成分があり、これらは時間反転操作で互いに入れ替わる。バレーは空間的に広がった電子の分子軌道の軌道角運動量に相当する。

 

注5)スピン:
 電子や陽子等のミクロな粒子が持つ内部自由度?。電子では上向きスピン?=+1と、下向きスピン????1の2成分があり、磁気的性質を与える。

 

注6)揺らぎ:
 ある自由度の平均値からのずれの標準偏差を表す。秩序近傍で重要となる。

 

注7)SU(N)対称性:
 複素数N成分を持つベクトルの回転(行列式1のユニタリ変換)に対する不変性。

 

【論文情報】

雑誌名:Physical Review Letter
論文タイトル:SU(4) Valley + Spin Fluctuation Interference Mechanism for Nematic Order in Magic-Angle Twisted Bilayer Graphene: The Impact of Vertex Corrections
著者:Seiichiro Onari (名古屋大学准教授), Hiroshi Kontani (名古屋大学教授)
DOI: 10.1103/PhysRevLett.128.066401
URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.128.066401

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 大成 誠一郎 准教授
http://www.s.phys.nagoya-u.ac.jp/