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数物系科学

2022.03.29

世界初!火山噴気の酸素同位体平衡温度測定に成功 ~噴気平均温度の遠隔推定が実現~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の角皆 潤 教授、伊藤 昌稚 特任助教、中川 書子 准教授らは、京都大学の横尾 亮彦 准教授らとの共同研究で、ドローンを用いた高濃度火山ガスの採取と、火山由来の二酸化炭素の酸素同位体含有率注1)の精密測定を阿蘇中岳で成功させ、酸素同位体平衡法に基づく噴気温度の遠隔測定注2)を実現しました。酸素同位体平衡法に基づく噴気温度は、平均噴気温度を反映するもので、火山で遠隔よりこれを実現したのは、本研究が世界初です。
火山から放出された火山ガスが、大気中で希釈されることで噴煙が形成されます。この噴煙の中の水素ガスの水素同位体含有率を精密測定することで、噴気温度が遠隔測定出来ることが従来から知られていましたが、噴気温度が200度を下回る火山では利用出来ませんでした。また、多様な温度の噴気孔が混在する場合は、その中の最高温度しか分かりませんでした。一方、二酸化炭素の酸素同位体含有率を使えば、温度の制約は実質存在せず、また多様な温度の噴気孔が混在する場合は、その平均温度を求めることが出来ます。問題は、水素同位体に比べて、より高濃度の火山ガスの採取が必要となる点でしたが、本研究グループは、小型の自動火山ガス採取装置をドローンに搭載して試料を採取することで、この問題を克服しました。また、阿蘇中岳の噴気温度は、観測が行われた2020年10月時点で平均120度程度と極めて低かったことが明らかとなり、火口直下に地下水循環系が発達していたことが分かりました。
本研究成果は、2022年3月28日付スイス科学雑誌「Frontiers in Earth Science」オンライン版に掲載されました。
本研究は、文部科学省次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト(課題B「先端的な火山観測技術の開発」)、阿蘇火山防災会議協議会の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・昨年度報告したドローンに搭載できる小型・自動の火山ガス採取装置(SelPS)をさらに改良し、阿蘇中岳から放出された高濃度の噴煙試料の採取に成功した。
・二酸化炭素の酸素同位体含有率を求め、高精度の噴気温度の遠隔測定を実現した。この噴気温度は、火口内の噴気孔の平均的な温度を反映すると考えられる。
・同時に採取した水素ガスの水素同位体含有率から求めた噴気の最高温度(約630度)と比較すると、平均温度(約120度)の方がはるかに低く、阿蘇中岳の火口下に地下水循環系が発達していることが明らかになった。
・今後は、噴気孔に接近できない火山や、噴火中の火山でも、噴気の平均温度を遠隔より測定出来る。また水素ガスの水素同位体含有率から求めた噴気温度と比較することで、地下水循環系の有無や、噴火メカニズムの判別も可能となった。火山活動の評価や将来予測に直接的に貢献する技術および成果である。
・この成果は、スイス科学雑誌「Frontiers in Earth Science」誌に掲載された。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)水素同位体含有率・酸素同位体含有率:
水素ガス(H2)や水(H2O)を構成する水素原子(H)は、大部分が質量数1の軽水素原子(1Hと表記)であるが、中性子が1個多い質量数2の重水素原子(2HもしくはDと表記)が約0.02%混在する。同じく二酸化炭素(CO2)や水(H2O)を構成する酸素原子は、大部分が質量数16の酸素原子(16Oと表記)であるが、中性子が2個多い質量数18の酸素原子(18Oと表記)が約0.2%混在する。これらの原子核はいずれも安定であるが、2Hが水素原子全体に占める比率や18Oが酸素原子全体に占める比率(同位体含有率もしくは同位体比と呼ばれる)は自然界における諸過程を経由する際に微小に変化するので、各種指標として活用されている。

 

注2)酸素同位体平衡法に基づく噴気温度の遠隔測定:
火山の噴気孔内では、主成分の水蒸気(H2O)と、微量成分である二酸化炭素(CO2)との間で、同位体を含めた酸素原子を速やかに交換(=同位体交換)する酸素同位体交換反応が進行しており、微量成分である二酸化炭素の噴気孔内における酸素同位体含有率は、実質的に温度のみの関数となっている。ところが、この水蒸気と二酸化炭素の間の酸素同位体交換反応は、80度以下に冷却されると停止してしまうため、大気中に放出された二酸化炭素の酸素同位体含有率から、大気中に放出される直前の温度(最後に酸素同位体交換反応が平衡に達していたときの温度で、AET18Oと表記)が推定出来る。同じように、噴気孔内の水素ガス(H2)と主成分の水蒸気(H2O)の間では水素同位体交換反応が進行しているが、こちらの交換停止温度は200度前後とやや高温となっている。従って、大気中に放出される直前の温度が200度以上の場合は噴気温度を反映するが、大気中に放出されるより前に地下水等との接触で200度以下に冷却されている場合は、その急冷直前の温度を反映する。なお、水素同位体交換反応が最後に平衡に達していたときの温度は、AETDと表記される。

 

【論文情報】

掲載雑誌: Frontiers in Earth Science(Frontiers Media SA社)
論文名:Sampling volcanic plume using a drone-borne SelPS for remotely determined stable isotopic compositions of fumarolic carbon dioxide(ドローン搭載SelPSを用いた火山噴煙採取に基づく火山性二酸化炭素の同位体組成定量)
著者:Urumu Tsunogai1, Ryo Shingubara1, Yuhei Morishita1, Masanori Ito1, Fumiko Nakagawa1, Shin Yoshikawa2, Mitsuru Utsugi2 and Akihiko Yokoo2 (角皆 潤1, 新宮原 諒1, 森下 雄平1,伊藤 昌稚1,中川 書子1, 吉川 慎2,宇津木 充2,横尾 亮彦2) (1. 名古屋大学,2. 京都大学)
公表日 プレプルーフ: 日本時間 2月29日 (現地時間2月28日)
最終版: 日本時間3月29日 (現地時間3月28日)
DOI:10.3389/feart.2022.833733

 

【研究代表者】

http://biogeochem.has.env.nagoya-u.ac.jp/index.html