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医歯薬学

2022.04.15

血液製剤によるアナフィラキシーが過小報告されている可能性を示唆 -手術中の血液製剤によるアナフィラキシー発生率を当施設12年間の麻酔記録から解析-

名古屋大学医学部附属病院麻酔科の天野靖大病院助教、田村高廣講師、西脇公俊教授らの研究グループは、手術中の血液製剤によるアナフィラキシーに関する大規模後方視的観察研究の結果を報告しました。
全身麻酔中のアナフィラキシーに関して筋弛緩薬や抗生剤が多いことは知られていますが、手術中に投与された血液製剤が原因のアナフィラキシーの論文報告は少なく、疫学も不明と考えられていました。その理由として、血液製剤は他の薬剤と異なり、アナフィラキシーの原因だと確定するための検査(皮膚テストなど)を行う事が難しく確定診断が困難なこと、他多数の薬剤が原因である可能性を除外しなければならないこと、血液製剤によるアナフィラキシー以外の副作用を否定しなければならないことが挙げられます。そこで近年提唱されたグレーディングシステム*1 とスコアリングシステム*2 を組み合わせ、さらに 4,000 論文を超える網羅的文献検索により手術中の血液製剤によるアナフィラキシーは血液製剤投与後 30 分以内に発症すると定義される事を見出すことで診断能を上げ、35,947 総輸血回数のうち 9 症例を血液製剤によるアナフィラキシーと断定しました。発生率は 1/3,994 と算出され、この値は日本赤十字社のヘモビジランス*3 の値より 3 倍高値でした。また 9 症例全てで日本赤十字社に副作用報告*4 されておらず、血液製剤によるアナフィラキシーは過少報告されている可能性が示唆されました。
本研究成果は、2022 年 4 月 13 日付けの日本麻酔科学会誌「Journal of Anesthesia」に掲載されました。

 

【ポイント】

○手術中の血液製剤によるアナフィラキシーの疫学は不明であり、確定診断するのも困難である
○2 つの診断システムと 30 分以内に発症するという定義を組み合わせて客観的に血液製剤によるアナフィラキシーと診断している
○血液製剤によるアナフィラキシーはヘモビジランスの値より高値であり、過少報告されている可能性がある

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 グレーディングシステム
従来は 1~4 の 4 段階評価でアナフィラキシーの重症度を評価するが主流であったが、近年は 1~5の 5 段階評価で 1~2 はアレルギー(軽症)、3~5 はアナフィラキシー(重症~死亡)とより細分化された。
*2 スコアリングシステム
臨床症状や検査結果の値など 6 項目で点数を付け、合計点を 5 段階評価でアナフィラキシーの確からしさを予測するシステム。
*3 ヘモビジランス
献血の段階から血液製剤投与後の全過程に関連する全ての有害事象を監視し、その原因を分析評価しているシステムのこと。日本では日本赤十字社が担う。
*4 副作用報告
医薬品等の製造販売業者や医薬関係者は、血液製剤投与後に重篤な副作用(アナフィラキシーなど)を知ったときには日本赤十字社に報告しなければならない。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of Anesthesia
論文タイトル:Incidence of intraoperative anaphylaxis caused by blood products: A 12-year single-center, retrospective study
著者:
Yasuhiro Amano, Takahiro Tamura, Tasuku Fujii, and Kimitoshi Nishiwaki
所属名:
Department of Anesthesiology, Nagoya University Graduate School of Medicine
DOI:10.1007/s00540-022-03059-2

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_220414en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 天野 靖大 病院助教
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/anesthesiology/