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数物系科学

2022.04.15

人間活動によって放出される大気微粒子が南大洋域への主要な鉄供給源となることを解明 ~地球温暖化予測の高度化に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の松井 仁志 准教授、リウ ミンシュ 研究員らの研究グループは、アメリカコーネル大学、アメリカ海洋大気庁などとの共同研究で、南大洋域における人為起源鉄(化石燃料の燃焼等の人間活動によって放出される微粒子に含まれる鉄)の大気濃度が、従来研究の推定と比べて約10倍多いことを新たに発見しました。
南大洋などの外洋域の海洋表層では、海洋生態系が光合成等のために利用する鉄が不足しており、大気から海洋への鉄供給が、大気中の二酸化炭素(CO2)の海洋への吸収を決める重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、この海域において、広域的な人為起源鉄の観測例はこれまでなく、その大気濃度や海洋への供給量はよく分かっていませんでした。
本研究では、人為起源鉄に関する新たな広域航空機観測と、全球気候シミュレーションによって、南大洋域において人為起源鉄が大気から海洋への鉄供給の主要な寄与を占め得ることを明らかにしました。そして、この海域において、現在から将来にかけて、大気から海洋への鉄供給量が大幅に減少する予測を初めて示しました。この結果は、将来的にこの海域において、大気CO2の海洋への吸収が抑制され、地球温暖化の加速に寄与する可能性を示唆しており、今後の地球温暖化・気候変動予測の不確実性を減らす重要な知見となることが期待されます。
本研究成果は、2022年4月13日午後6時(日本時間)付で気候科学分野の国際学術誌「npj Climate and Atmospheric Science」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会・科学研究費助成事業、環境省・環境再生保全機構の環境研究総合推進費、文部科学省・北極域研究加速プロジェクト、公益財団法人木下記念事業団・木下基礎科学研究基金助成金などの支援のもとで行われたものです。
 

【ポイント】

・新たな広域航空機観測と数値シミュレーションによって、南大洋域における人間活動由来の微粒子に含まれる鉄(人為起源鉄)の大気濃度が、従来研究の推定と比べて約10倍多いことを初めて実証した。
・人為起源鉄が、南大洋域における大気から海洋への鉄供給の主要な寄与を占め得ることを明らかにした(従来は自然起源の鉄粒子が主要な起源と考えられてきた)。
・この海域において、将来的に大気から海洋への鉄供給量が、大幅に減少する予測を初めて示した。鉄供給量が減少すると、海洋表層の一次生産や二酸化炭素の大気から海洋への吸収が抑制され、地球温暖化の加速に寄与するなど、将来の気候予測にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:npj Climate and Atmospheric Science
論文タイトル:The underappreciated role of anthropogenic sources in atmospheric soluble iron flux to the Southern Ocean
著者:*Mingxu Liu1, *Hitoshi Matsui1, Douglas S. Hamilton2, Kara D. Lamb3,4, Sagar D. Rathod5, Joshua P. Schwarz4, and Natalie Mahowald2
1 名古屋大学大学院環境学研究科
2 米国コーネル大学
3 米国コロラド大学
4 米国海洋大気庁地球システム研究所
5 米国コロラド州立大学
DOI:10.1038/s41612-022-00250-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41612-022-00250-w

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 松井 仁志 准教授
http://has.env.nagoya-u.ac.jp/~matsui/