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医歯薬学

2022.04.08

がん放射線治療の幅広い効果増強へ ~プラスの金ナノ粒子のMV X線誘発DNA損傷の増強効果~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻の余語 克紀 助教、亀高 諭 教授、大学院工学研究科 髙見 誠一 教授らの研究グループは、産業技術総合研究所、愛知県がんセンター、量子科学技術研究開発機構、北里大学、広島大学との共同研究で、放射線治療の高エネルギー MV X線注1)照射によって生じるDNA損傷に対して、プラスに帯電した金ナノ粒子注2)の増強効果を明らかにしました。
放射線治療は副作用が少なく、がんに集中して高い線量を投与できる優れた治療法であり、MV X線は最もよく使われる放射線の一つです。治療効果をさらに高めるために、金ナノ粒子を薬剤として併用する方法が有望と考えられていますが、従来は大量の金ナノ粒子を必要とする点が課題でした。
本研究では、MV X線照射によって生じたDNA損傷をDNA電気泳動法注3)で高感度に調べ、プラス及びマイナスに帯電した、金ナノ粒子による増強効果の違いを調べました。その結果、X線によって生じる活性酸素量は電荷のプラス・マイナスに関係なく同程度であるにもかかわらず、プラス電荷を持つ金ナノ粒子のみが、DNA損傷に対して有意な増強効果を示しました。これにより、プラスの金ナノ粒子がマイナスのDNAに結合することで、少量でも効果的に増強している可能性が示唆されました。
このことは、金ナノ粒子の用量低減に向けた解決の糸口となり、さらに治療効果を高めるがん放射線治療用薬剤の開発に寄与すると期待されます。
本研究成果は、2022年3月1日付欧州科学専門誌「Nanomaterials」に掲載されました。
本研究は、公益財団法人立松財団/公益財団法人放射線影響協会/公益財団法人愛知県がん研究振興会の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・放射線治療の効果を高めるために、金ナノ粒子の併用が有望であるが、金ナノ粒子を大量に必要とする点が臨床応用に向けた課題である。
・治療用高エネルギーX線照射によって生じるDNA損傷を、DNA電気泳動法で高感度に調べ、プラスおよびマイナスに帯電した金ナノ粒子による増強効果の違いを調べた。
・DNA損傷に対して、プラスの金ナノ粒子のみが少量でも有意な増強効果を示した。一方で、マイナスの金ナノ粒子も同程度の活性酸素を発生した。
・プラスおよびマイナスによる効果の違いは、DNAへの結合のしやすさにより生じている可能性が示唆された。
・電気的な性質を変えることで、より少ない量の金ナノ粒子で、効果的にがん放射線治療の効果を増強できる可能性が示された。今後本手法の臨床応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)高エネルギー MV X線:
診断用のX線に比べ、約100倍高いエネルギーを持ち、がん放射線治療法で最もよく使われる放射線の一つ。体の奥深くにできたがんへ、集中して高い線量を投与できる優れたがん治療が可能である。治療では、がんの形状に合わせて、多方向から絞りを用いて照射し、正常組織の被曝を抑えながら治療効果を高める。

 
注2)金ナノ粒子:
ナノメートル(10億分の1メートル)単位の大きさを持つ金粒子。放射線をよく吸収し、放射線治療の効果を高める薬剤として注目されている。金という材質は、化学変化が少なく医学の他の分野でも使用実績があり安全性が高い。さらに金粒子は各種の修飾が容易であり、本研究ではアミノ基を修飾してプラスの電荷を与えた。

 
注3)DNA電気泳動法:
DNAをアガロースなどの寒天の網目の中に通して、電気の力で引っ張り、大きさによって簡単にふるい分ける方法。本実験で用いたDNAは、プラスミドDNAという小さなリング状のDNAであり、小さくよじれた形(損傷なし)から、開いた環状(一本鎖切断)、直線状(二本鎖切断)への変化を簡単に高感度に検出できる。

 

【論文情報】

雑誌名:Nanomaterials(欧州科学専門誌)
論文タイトル:Radiosensitization Effect of Gold Nanoparticles on Plasmid DNA Damage Induced by Therapeutic MV X-rays
著者:Katsunori Yogo, Masaki Misawa, Hidetoshi Shimizu, Tomoki Kitagawa, Ryoichi Hirayama, Hiromichi Ishiyama, Hiroshi Yasuda, Satoshi Kametaka, and Seiichi Takami(本学関係教員;余語克紀、亀高諭、髙見誠一)
DOI: 10.3390/nano12050771 
URL: https://www.mdpi.com/2079-4991/12/5/771

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科総合保健学専攻 余語 克紀 助教