名古屋大学医学部附属病院消化器内科・病院助教 飯田忠、同・病院助教 水谷泰之、名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学・教授 川嶋啓揮、同腫瘍病理学・教授 榎本篤、藤田医科大学国際再生医療センターの高橋雅英センター長、藤田医科大学消化器内科学教授 廣岡芳樹、および東京大学消化器内科学教授 藤城光弘の共同研究グループは、名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部の支援のもと、膵がんの間質(かんしつ)で増える線維芽細胞(せんいがさいぼう)の性質を遺伝子操作あるいは化合物によって変化させると、抗がん剤の効果が増強することを、膵がんマウスモデルを用いて明らかにしました。線維芽細胞の性質を人為的に改変する技術がヒトのがんにも応用できる可能性を示しています。
本研究成果は、2022 年 4 月 13 日(英国時間)に国際科学雑誌「Oncogene」のオンライン版で掲載されました。
なお、この研究は日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ『メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出』研究開発領域における研究開発課題「がん―間質におけるメカノバイオロジー機構の解明」(研究開発代表者:芳賀永)、次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)における研究開発課題「がん関連線維芽細胞の多様性の機序解明とその改変にもとづく腫瘍免疫制御法の開発」(研究開発代表者:榎本篤)および「膵がんのがん関連線維芽細胞多様性の理解に基づく間質標的治療法の開発」(研究開発代表者:水谷泰之)の支援のもと行われたものです。
○ 膵がん等の難治がんでは、その間質(がん細胞を取り囲むがん細胞以外の領域)にがん関連線維芽細胞(CAF:cancer-associated fibroblast)(注※1)が増えることがわかっています。CAF にはがん促進性の細胞(がんの味方)とがん抑制性の細胞(がんの敵)の両者が存在する可能性が報告されています。
○ 本研究チームは以前にがん抑制性 CAF の特異的機能マーカーとして Meflin(メフリン)(注※2)分子を同定しました。
○ 今回、Meflin 遺伝子の発現を増強し、がん促進性 CAF をがん抑制性 CAF に変換させる化合物として合成レチノイド AM80(注※3)を同定しました。
○ 膵がんマウスモデルに AM80 を投与すると、腫瘍が物理的にやわらかくなり、腫瘍血管の拡張と抗がん剤の薬物送達(ドラッグデリバリー)の改善が見られること、これに伴い抗がん剤の治療効果が増強することを見出しました。組み換えセンダイウイルスを用いて Meflin 遺伝子を CAF に導入する方法を用いた場合にも同様の効果がみられました。
○ AM80 と抗がん剤の併用の効果を膵がん患者で検証する医師主導治験(治験責任医師:川嶋啓揮)が AMED 臨床研究・治験推進研究事業の支援のもと開始されています(研究開発代表者:藤城光弘、https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT05064618)。
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※1 がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast:CAF):
がん間質(がん細胞を支える組織)を構成する線維芽細胞(間質を構成するコラーゲン等の線維を産生する細胞)であり、がん細胞の悪性化(増殖、浸潤、転移)を促進するさまざまな増殖因子やサイトカイン・ケモカインを大量に産生することが報告されている。近年は CAF にも機能多様性があり、がん促進性 CAF とがん抑制性 CAF の両者が存在することを示唆する実験データが報告されている。
※2 Meflin(メフリン):
GPI(グリコシルホスファチジルイノシトール)アンカー型の膜型分子であり、本研究チームが以前に未分化な間葉系幹細胞および線維芽細胞の特異的マーカーとして報告した。サイトカインの一種である BMP7(Bone Morphogenetic Protein 7 )の機能を増強し、組織の線維化の抑制に関与することが報告されているが、その詳細な分子機能については未だ不明な点が多い。
※3 AM80(一般名:タミバロテン):
首藤紘一博士(東京大学名誉教授)および影近弘之博士(東京医科歯科大学)により開発された合成レチノイドであり、現在、急性前骨髄性白血病に治療に用いられている(日本新薬・アムノレイク錠)。
掲雑誌名:Oncogene
論 文 タ イ ト ル : Pharmacologic conversion of cancer-associated fibroblasts from a protumor phenotype to an antitumor phenotype improves the sensitivity of pancreatic cancer to chemotherapeutics
著者:
Tadashi Iida 1,2,11, Yasuyuki Mizutani 1,2,11, Nobutoshi Esaki 1, Suzanne M. Ponik 3, Brian M Burkel 3, Liang Weng 4, Keiko Kuwata 5, Atsushi Masamune 6, Seiichiro Ishihara 7, Hisashi Haga 7, Kunio Kataoka1,2, Shinji Mii 1, Yukihiro Shiraki 1, Takuya Ishikawa 2, Eizaburo Ohno 2, Hiroki Kawashima 8, Yoshiki Hirooka 9, Mitsuhiro Fujishiro 2,10, Masahide Takahashi 11, Atsushi Enomoto 1
所属名:
1Department of Pathology, 2Gastroenterology and Hepatology , Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan
3Department of Cell and Regenerative Biology, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI 53705, USA
4Department of Oncology, Xiangya Cancer Center, Xiangya Hospital, Central South University, Changsha 410008, China
5Institute of Transformative Bio-Molecules, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8602, Japan
6Division of Gastroenterology, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai 980-8574, Japan
7Faculty of Advanced Life Science, Hokkaido University, Sapporo 060-0810, Japan
8Department of Endoscopy, Nagoya University Hospital, Nagoya 466-8550, Japan
9Department of Gastroenterology and Hepatology, Fujita Health University, Toyoake, Aichi 470-1192, Japan
10Department of Gastroenterology, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo 113-8655, Japan
11International Center for Cell and Gene Therapy, Fujita Health University, Toyoake, Aichi 470-1192, Japan
DOI:10.1038/s41388-022-02288-9
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Onc_220413en.pdf