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数物系科学

2022.04.04

カゴメ格子超伝導体CsV3Sb5に浮かび上がるダビデ星模様と超伝導の謎を解明 ~幾何学フラストレーションと量子干渉効果の競演~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の田財 里奈 特任助教、山川 洋一 講師、大成 誠一郎 准教授、紺谷 浩 教授の研究グループは、カゴメ格子構造注1)の金属化合物CsV3Sb5において、創発するユニークな相転移現象注2)―ダビデ星型電荷秩序注3)や非従来型超伝導注4)―を統一的に説明する理論を発見しました。
物質中の電子の豊かな物理現象は、現代物理学の重要なテーマです。量子力学注5)に従う電子は粒子と波の2面性を持ち、波として自由に遍歴するときは金属に、粒子として原子上に局在するときは絶縁体になります。ところが近年、粒子性と波動性を併せ持つ「液晶的な電子秩序注6)」が相次いで発見されました。量子液晶は、外場に対する敏感な応答性などの、豊かな機能性が注目を集めています。しかし、なぜ液晶秩序が生じるのかという根源的な疑問が未解明でした。
カゴメ格子金属CsV3Sb5は、幾何学フラストレーション注7)を有する新種の超伝導体であり、そこで発現するダビデ星形状の秩序は、新手の量子液晶として注目を集めています。本研究では、幾何学フラストレーションによって電子の量子性が強調され、粒子性と波動性を両立させるダビデ星型秩序が創発することを見出しました。さらにダビデ星型秩序は、大変ユニークな超伝導をもたらすことがわかりました。本理論は様々な量子液晶系への応用が期待されます。
本研究成果は、2022年4月2日午前4時(日本時間)付アメリカ科学誌「Science Advances」に掲載されました。
本研究は、2019年度から始まった文部科学省 新学術領域研究「量子液晶の物質科学」の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・新規カゴメ格子金属CsV3Sb5において、創発するユニークな相転移「ダビデ星型電荷秩序や非従来型超伝導」を統一的に説明する理論を発見した。
・ダビデ星型秩序は、幾何学フラストレーションと量子効果の協力が生み出す新規な相転移である。ダビデ星型秩序が融解する際の量子揺らぎが、多彩な超伝導をもたらす。
・本理論は様々な量子液晶系への応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)カゴメ格子構造:
 竹籠の網目模様に類似した2次元格子構造。竹ひごの交点に原子を配置するとカゴメ格子が得られる。カゴメ格子金属は強い幾何学フラストレーションを有し、新規な電子物性の舞台として注目を集める。

 

注2)相転移現象:
 温度や圧力を変えることで巨視的な性質(相)が変化する現象。金属電子は電荷秩序、磁気秩序、超伝導など多彩な相を示し、これらの相を自由に制御することは物性物理の重要な目的である。

 

注3)ダビデ星型電荷秩序:
 カゴメ格子上の近接する12原子がひとつのクラスターを形成し、クラスター上に電子が広がって存在する状態。

 
注4)超伝導:
 電気抵抗が完全にゼロになる金属の相転移。金属中の多数の電子がクーパー対と呼ばれる電子対を組むことで起きる。クーパー対の形成機構が電子格子相互作用である場合を従来型超伝導、電子間斥力である場合を非従来型超伝導と呼ぶ。

 

注5)量子力学:
 電子などのミクロな粒子の運動を司る物理法則のこと。量子力学よると、電子は粒子としての性質(粒子性)と波としての性質(波動性)という2重性をあわせ持つ。これは不確定性原理と呼ばれる。

 

注6)液晶的な電子秩序:
 電子波動関数が複数原子にまたがるクラスターを自発的に形成して実現する、回転対称性や並進対称性が破れた電子状態。電子が系全体を遍歴する金属状態と、原子上に局在した絶縁体状態との中間的な電子状態であり、電子の波動性と粒子性を両立させる最適状態といえる。電子液晶ではこれまでにない機能性や応答性を持つ巨視的状態が発現する。

 

注7)幾何学フラストレーション:
 カゴメ格子が有する三角形構造は、電子の磁気秩序や電荷秩序を著しく抑制する効果があり、幾何学フラストレーションと呼ばれる。このとき電子の量子性(粒子・波動の2面性)が強調されるため、エキゾティックな電子状態が生まれやすい。

 

【論文情報】

雑誌名:Science Advances
論文タイトル:Mechanism of exotic density-wave and beyond-Migdal unconventional superconductivity in kagome metal AV3Sb5 (A=K, Rb, Cs)
著者:田財里奈、山川洋一、大成誠一郎、紺谷浩
DOI: 10.1126/sciadv.abl4108                                   

URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abl4108

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 田財 里奈 特任助教
http://www.s.phys.nagoya-u.ac.jp/