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人文学

2022.04.06

氷河期終末の温暖化と乾燥化の下でホモ・サピエンスが行った狩猟活動を解明 ~動物考古学と地球化学的分析~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の廣瀬 允人 博士後期課程学生と名古屋大学博物館の内藤 裕一 研究員らは、名古屋大学博物館の門脇 誠二 教授が主導する研究プロジェクトの一環で、氷河期終末の西アジアにおける古環境、およびホモ・サピエンス(現生人類)による狩猟活動を、動物考古学および地球化学的方法により明らかにしました。
本研究では、西アジアのヨルダン国においてトール・ハマル遺跡 注1)を発掘し、2万4千~1万5千年前の文化層から動物遺存体(骨や歯)を採取しました。その骨学的分析を行うと共に、歯のエナメル質に含まれる炭素と酸素の安定同位体比注2)の測定、および堆積物の炭素安定同位体比の測定を行いました。その結果、主な狩猟対象のガゼルが枯渇しつつある状況が明らかになりました。また、この時期は乾燥化が進んでいましたが、人々は湿潤な場所のガゼルも狩猟し、アイベックスなどのヤギ類の狩猟も組み合わせていたことが明らかになりました。この結果は、氷河期終末の気候変動の下、動物資源が減少していたにも関わらず、私たちホモ・サピエンスの祖先集団が持続的な狩猟を行っていたことを示します。それは、気候変動に対応した経済基盤だったということができ、この時期の人口増加を支えたと考えられます。
本研究成果は、2022年3月18日付オランダElsevier社の科学誌「Quaternary Science Reviews」及び2022年4月1日付日本オリエント学会の国際誌「Orient」で公開されました。
本研究は、文部科学省 科学研究費補助金新学術領域研究(2016~2020)と基盤研究A(2020~2024)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・西アジアのヨルダン国においてトール・ハマル遺跡を発掘調査し、2万4千~1万5千年前のカルハ文化層とムシャビ文化層から、この地域で希少な動物遺存体(骨や歯)を採取した。
・その動物考古資料(約500点)を用いて骨学的分析を行うと共に、歯のエナメル質に含まれる炭素と酸素の安定同位体比の測定、および堆積物の炭素同位体比の測定を行った。
・その結果、主な狩猟対象のガゼルが枯渇しつつある状況が明らかになった。また、この時期は乾燥化が進んでいたが、人々は湿潤な場所のガゼルも狩猟したり、ヤギあるいはアイベックスの狩猟も組み合わせたりしていたことが明らかになった。
・以上は、氷河期終末の気候変動の下、動物資源が減少していたにも関わらず、私たちホモ・サピエンスの祖先集団が持続的な狩猟を行っていたことを示す。それは、気候変動に対応した経済基盤だったということができ、この時期の人口増加を支えたと考えられる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 
【用語説明】

注1)トール・ハマル遺跡:
中東のヨルダン国南部の岩陰遺跡。アメリカのタルサ大学が1980年代に発見して調査した後、名古屋大学が2016年から発掘調査を継承した。4万~1万5千年前の堆積物があり、当時の狩猟採集民がキャンプ地として居住したことを示す遺物(石器や貝殻装飾品、動物遺存体)や遺構(炉跡)が残されている。

 

注2)炭素と酸素の安定同位体比:
同じ元素だが質量数が異なる原子である同位体のうち、炭素の場合は12Cに対する13Cの存在量の比率、酸素の場合は16Oに対する18Oの比率に基づく値をここでは指す。熱帯~亜熱帯の乾燥環境に適応する植物(C4植物)は炭素安定同位体比が比較的高い。また、高温乾燥下で蒸発量が多い水たまりの酸素同位体比は高い。そうした環境の指標となる同位体比は、そこで生息した草食動物の体に反映されるという仮定の下、遺跡から出土したガゼルなどの有蹄類の歯の炭素・酸素安定同位体比を測定した。

 

【論文情報】

雑誌名:Quaternary Science Reviews, 282号, 107432
論文タイトル:Paleoenvironment and human hunting activity during MIS 2 in southern Jordan: Isotope records of prey remains and paleosols
著者:Yuichi I. Naito(内藤裕一)a, Masato Hirose(廣瀬允人)a, Miriam Belmaker b, Donald O. Henry b, Momoko Osawa(大澤桃子)a, Takashi Nakazawa(中沢隆)c, Sophie G. Habinger d, Peter Tung d, Hervé Bocherens d, Sate Massadeh e, Seiji Kadowaki(門脇誠二)a
a 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科 b アメリカ、タルサ大学 人類学科
c 奈良女子大学 自然科学系  d ドイツ、テュービンゲン大学 地球科学科
e ヨルダン考古局
DOI: 10.1016/j.quascirev.2022.107432
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379122000634

 

雑誌名:Orient, 57号, 21-42頁
論文タイトル:Epipaleolithic hunting in an arid area of the Levant: Faunal remains from Tor Hamar, southern Jordan
著者: Masato Hirose(廣瀬允人)a, Miriam Belmaker b, Seiji Kadowaki(門脇誠二)a, Sate Massadeh c, Donald O. Henry b
a 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科 b アメリカ、タルサ大学 人類学科
c ヨルダン考古局

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館/大学院環境学研究科 門脇 誠二 教授
http://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html