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生物学

2022.04.15

積み荷を降ろすには留め具を破壊! ~目的地まで運んだミトコンドリアを解放するタンパク質分解~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の小原 圭介 助教、嘉村 巧 教授らは、名古屋市立大学大学院理学研究科の中務 邦雄 准教授との共同研究で、細胞内小器官のミトコンドリア注1)が新しい細胞に遺伝する際の仕組みを発見しました。
本研究では、ミトコンドリアが積み荷として、モータータンパク質ミオシン注2)(貨物車に相当)によって目的地(新しい細胞)に運ばれた後に、ミオシンとミトコンドリアを繋ぎ止めている留め具タンパク質Mmr1が積極的に壊されることで、ミトコンドリアが、ミオシンから解放されて自由に動き回ることを発見しました。留め具タンパク質Mmr1の分解が起こらないと(積み荷の荷降ろしが滞ると)、ミトコンドリアの分布や形態、更には働きに異常が生じて、有毒な活性酸素が多く産出されることも分かりました。これは、タンパク質を積極的に分解する「プロテオリシス」の新しい役割として注目すべき発見です。この成果は主に酵母を用いた実験で得られました。この仕組みによって、酵母は増殖して新しい細胞を生み出す際にミトコンドリアを正常に遺伝させていると考えられます。
本研究により、細胞内で様々な積み荷を降ろす過程で、留め具タンパク質の分解が起こっているか否かを検証する研究が惹起されると考えられます。また、ミトコンドリアをはじめとした、細胞小器官の輸送や分布の異常に伴う疾病の原因解明や、創薬が進むと期待されます。
本研究成果は、2022年4月14日午後6時(日本時間)付オープンアクセスの学術誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・酵母はミトコンドリアを積み荷として、目的地の新しい細胞(娘細胞)に運んだのちに、留め具タンパク質であるMmr1を分解して貨物車であるミオシンから降ろしていた。
・Mmr1は特定のタンパク質を狙って分解する、ユビキチン・プロテアソームシステム注3)によって分解されていた。
・ミトコンドリアが目的地に到達する前にMmr1が分解されてしまわないように、目的地付近に到達したミトコンドリアに結合しているMmr1にリン酸化修飾が施され、それがMmr1のユビキチン化と分解を引き起こしていた。
・Mmr1の分解が滞ると、ミトコンドリアがミオシンと解離できず、ミオシンの動きに引きずられて異常な分布を示し、ミトコンドリアの形態異常や機能異常をもたらした。また、それに伴って有毒な活性酸素が増産されていた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ミトコンドリア:
細胞内小器官の一つであり、エネルギーであるATPを好気呼吸によって生み出す。その一方で、有毒な活性酸素の主な発生源にもなる。酵母では、ミトコンドリアはMmr1という留め具タンパク質を介して、ミオシン(下記参照)に結合してアクチンケーブル上を運ばれ、新たに生まれる娘細胞に分配されて遺伝する。

 

注2)ミオシン:
細胞骨格であるアクチンケーブル上を動き、積み荷を輸送するモータータンパク質の一種。

 

注3)ユビキチン・プロテアソームシステム:
細胞の中で不要になったタンパク質、有害なタンパク質、特定のプロセスにブレーキを掛けるタンパク質などは、状況に応じて積極的に分解される必要がある。分解されるべきタンパク質にはユビキチンという小さいタンパク質が目印として付加され、そのユビキチンに次のユビキチンが付加され、ということが繰り返されて、ユビキチンの鎖(ポリユビキチン鎖)が形成される。ポリユビキチン鎖が付加されたタンパク質は、巨大なタンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームによって分解される。この一連のシステムをユビキチン・プロテアソームシステムという。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Proteolysis of adaptor protein Mmr1 during budding is necessary for mitochondrial homeostasis in Saccharomyces cerevisiae
著者:Obara K*#, Yoshikawa T*, Yamaguchi R, Kuwata K, Nakatsukasa K, Nishimura K, and Kamura T#
下線:本学教員 *:等しく貢献 #:責任著者
DOI: 10.1038/s41467-022-29704-8
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-022-29704-8

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 嘉村 巧 教授
URL:https://sites.google.com/view/kamura-lab/ホーム