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複合領域

2022.05.12

巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の後藤 佑介 研究員、依田 憲 教授らの研究グループは、東京大学大気海洋研究所の佐藤 克文 教授、フランスのシゼ生物学研究センター(CEBC)との共同研究で、航空力学に基づいて、絶滅した巨大飛行生物と現代の鳥類の、風や気流を利用した滑空注1)飛行(ソアリング注2))における能力を計算、比較しました。その結果、プテラノドン注3)(翼開長注4)約5~6m)が現代のグンカンドリのように、海上の上昇気流を使ったソアリング飛行を得意としたことが分かりました。さらに、史上最大級の翼竜注5)、ケツァルコアトルス注6)(翼開長約10m)が、ソアリング飛行に不向きであったことを発見しました。この結果から、ケツァルコアトルス及び同サイズの超大型翼竜は、ほとんど飛ばずに陸上生活をしていた可能性が高いと考えられます。
本研究成果により、絶滅した巨大鳥類や翼竜に関する図鑑での説明や、映画での描写が大きく変わることが期待されます。
本研究成果は、2022年5月5日に米学術誌「PNAS Nexus」創刊号に掲載されました。
本研究は、2021年度から始まった文部科学省「学術変革領域(A)階層的生物ナビ学」などの科学研究費助成事業の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・現生の大型鳥類は風を使った滑空飛行(ソアリング)を行う。ソアリングには上昇気流を利用したサーマルソアリング注7)と、海上の風速勾配を利用したダイナミックソアリング注8)の2種類がある。
・力学モデルを使って4種の絶滅巨大飛行生物のサーマルソアリングとダイナミックソアリングの性能を計算し、現生鳥類の性能と比較した。
・史上最大級の飛行生物とされる巨大翼竜、ケツァルコアトルスが、現代の鳥類に比べて、ダイナミックソアリングもサーマルソアリングも下手であることが分かった。この結果から本種はほとんど飛ばずに陸上生活をしていた可能性が高いと考えられる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)滑空(gliding):
生物が翼を羽ばたかせずに飛ぶ方法。

 

注2)ソアリング(soaring):
滑空の中でも風などの空気の流れを利用して飛ぶ飛行方法。

 

注3)プテラノドン(Pteranodon longiceps):
最も有名な翼竜の1種。白亜紀後期に生息。推定翼開長は5?6m。化石が過去の海底から数多く見つかっていることから、現代の海鳥のように海上を生活の舞台にしていたと考えられている。アホウドリのようにダイナミックソアリングをしていたとする研究(Witton & Habib 2010)と、グンカンドリのように海上をサーマルソアリングしていたとする研究(Palmer 2011)があった。本研究の結果から、本種はダイナミックソアリングが苦手で、サーマルソアリングに適していたことが分かった。

 

注4)翼開長:
翼竜や鳥が翼を広げたときの、翼の端から端までの長さ。

 

注5)翼竜:
三畳紀後期から白亜紀末期まで生息した、飛行する爬虫類。皮膜状の翼を持つ。白亜紀後期にはケツァルコアトルスをはじめとした、翼開長が10m近くに達する超大型翼竜が複数種出現したと考えられている。

 

注6)ケツァルコアトルス(Quetzalcoatlus northropi:以下Q. northropiと表記):
史上最大級の翼竜のうちの1種。約7000万年前に生息。その体重は約70kgと推定されてきたが、2010年前後に複数の研究が3倍以上重い体重の推定値を報告した(Witton 2008, Sato et al. 2009, Henderson et al. 2010)。現在は、研究によりばらつきはあるものの、おおよそ、翼開長9~11m、体重250kgとされている。本種以外にも、同クラスのサイズであったと推定される翼竜の化石がこれまで複数報告されている。しかし、いずれの巨大翼竜も全身骨格化石は見つかっていない。Q. northropiの場合、上腕を含むごく一部の骨が見つかっているのみである。Q. northropiの形態復元はその多くを、小型の近縁種Quetzalcoatlus lawsoni(推定翼開長約5.5m, 2021年に正式に命名)の化石から得た知見に拠っている。

 

注7)サーマルソアリング:
陸上や海上に生じた上昇気流内を旋回上昇し、その後滑空するプロセスを繰り返すことで移動するソアリング方法。現生の鳥類では、主に陸上性の鳥類が使い、ワシ類やコンドル類が日常的に使う。例外的に海上でのサーマルソアリングを日常的に行う種としてグンカンドリがいる。本研究ではサーマルソアリングの性能の指標として、鳥が円軌道を旋回しながら上昇するのに必要な上昇気流の速度と、直線経路を滑空して1mの高度を降下した際に移動できる水平方向の移動距離、の2つを計算した。

 

注8)ダイナミックソアリング:
海上付近の風は海面から高度が上がるほど風速が大きくなる(風速勾配)。この風速勾配を利用することで、羽ばたかずに飛ぶ方法がダイナミックソアリングである。現生の鳥類では、ミズナギドリ類やアホウドリ類が日常的にこの飛行方法を利用する。本研究ではダイナミックソアリングの性能の指標として、ダイナミックソアリングで実現できる最大移動速度、向かい風方向へ飛ぶ際に実現できる最大移動速度、持続的なダイナミックソアリングをするのに必要な最小風速を計算した。

 

【論文情報】

雑誌名:PNAS Nexus
論文タイトル:”How did extinct giant birds and pterosaurs fly? A comprehensive modeling approach to evaluate soaring performance”
著者:Yusuke Goto (名大, CEBC(研究当時)), Ken Yoda(名大), Henri Weimerskirch (CEBC), and Katsufumi Sato (東大)     
DOI:10.1093/pnasnexus/pgac023
URL: https://academic.oup.com/pnasnexus/article/1/1/pgac023/6546201?login=true

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 依田 憲 教授
http://yoda-ken.sakura.ne.jp