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医歯薬学

2022.07.28

原因不明習慣流産患者の絨毛の DNA メチル化プロファイルにおける正常妊娠との違いの解明 ― 習慣性流産と関連する新たな現象を発見! ―

名古屋大学大学院医学系研究科・腫瘍生物学分野の近藤豊(こんどう ゆたか)教授、新城恵子(しんじょう けいこ)講師、名古屋市立大学大学院医学研究科・産科婦人科学分野の杉浦真弓(すぎうら まゆみ)教授、松本洋介(まつもと ようすけ)病院助教(筆頭著者)らの研究グループは原因不明習慣流産患者の絨毛 ※1 の DNA メチル化 ※2 プロファイルは、正常妊娠と異なっていることを発見しました。
習慣流産は 3 回以上連続する流産であり、その頻度は 1.1%と言われています。少子化の現代において、習慣流産の原因究明とその予防は喫緊の課題です。本研究ではエピジェネティクス ※2 の観点から、胎盤組織において絨毛(胎児由来)と脱落膜 ※3(母体由来)を同時に、網羅的に DNA メチル化解析を行いました。
まず階層型クラスター分析を行い、脱落膜ではなく絨毛において、習慣流産群と正常妊娠群で DNA メチル化プロファイル(様式)が異なっていることがわかりました。習慣流産群と正常妊娠群で DNA メチル化の異なる代表的な遺伝子として SPATS2L を同定し、習慣流産群の絨毛において mRNA の発現とタンパク質の発現が低下していることを発見しました。また、SPATS2L を人為的に抑制(ノックダウン)すると、細胞性栄養膜細胞の浸潤能・遊走能が低下し、胚の正常な発育が阻害されることが示唆されました。これらのことから、習慣流産の原因の一つとして、エピゲノム ※2 異常が存在する可能性が示唆されました。今回の対象となった習慣流産患者 5 人全員がその後に生児獲得できていることから、従来原因不明と説明していた患者に、研究的にはエピゲノム異常による流産が存在し、その場合は次回妊娠において生児獲得が期待できると説明できます。
本研究は、JSPS 科研費(19K18701、20K20598、20H03511)、文部科学省共同利用・共同研究拠点 Distinctive Joint Research Center Program (JPMXP0621467963)のサポートのもとでおこなわれたもので、英科学誌「Scientific Reports」(2022 年 7 月 27 日付(英国時間 午前 10 時))に掲載されました。

 

【ポイント】

○DNA メチル化は遺伝子の発現を調節する DNA の化学修飾で、正常な発生を進める上で不可欠です。
○習慣流産は 3 回以上連続する流産であり、その頻度は 1.1%です。これまでは絨毛(胎児)染色体検査を含め種々の精査を行っても、約 25%の症例で原因は不明のままでした。
○私たちは原因不明習慣流産患者の流産時に採取した絨毛(胎児由来)と、脱落膜(母体由来)を全ゲノムで DNA メチル化解析し、脱落膜(母体由来)ではなく、絨毛(胎児由来)において DNA メチル化様式が習慣流産群で、正常妊娠群とは異なっていることを発見しました。
○習慣流産群と正常妊娠群で DNA メチル化の異なる代表的な遺伝子として SPATS2L を同定しました。さらに習慣流産群の絨毛の細胞性栄養膜細胞では、SPATS2L タンパク質の発現が低下していることを発見しました。また SPATS2L を人為的に抑制すると、栄養膜細胞の浸潤能・遊走能が低下することを発見し、胚の正常な発育が阻害されることが示唆されました。
○習慣流産の原因となりうる一つの因子として、絨毛の DNA メチル化異常が示唆されました。これまで原因不明と説明していた患者に、研究的にはエピゲノム異常による流産が存在し、研究対象の習慣流産患者 5 人全員がその後生児獲得できていることから、その場合は次回妊娠での生児獲得の期待値が高いと説明できます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 絨毛
胎児の付属物である胎盤を構成する組織で、妊娠初期では細胞性栄養膜細胞と合胞体栄養膜細胞の 2 層構造となっています。胚の着床の時期に脱落膜に侵入し、母体血が流入して母体と胎児間の栄養交換の場所となります。

 

※2 DNA メチル化、エピジェネティクス、エピゲノム
DNA の塩基配列を変えることなく、遺伝子の発現を調節する仕組みをエピジェネティクスといいます。発現する遺伝子をコントロールする機序として、DNA メチル化(DNA の化学修飾)や、DNA が巻き付いているヒストンタンパク質の化学修飾などがあり、これらの修飾を総称してエピゲノムと呼びます。

 

※3 脱落膜
脱落膜は、妊娠の成立に伴い変化し、妊娠の終結に伴い胎盤とともに剥脱する子宮内膜組織の一部と定義されます。子宮内膜間質細胞が胚の着床に伴い 形態学的および機能的に分化をする過程を脱落膜化といい、この分化過程は 絨毛細胞の浸潤の制御、さらには胎盤形成に重要な役割を果たしています。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Characteristic DNA methylation profiles of chorionic villi in recurrent miscarriage
著者:
Yosuke Matsumoto 1, Keiko Shinjo 2, Shoko Mase1, Masaki Fukuyo 3, Kosuke Aoki 4, Fumiko Ozawa 1, Hiroyuki Yoshihara1, Shinobu Goto 1, Tamao Kitaori 1, Yasuhiko Ozaki1, Satoru Takahashi 5, Atsushi Kaneda 3, Mayumi Sugiura‑Ogasawara 1 & Yutaka Kondo 2
所属名:
1. Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya 467-8601, Japan.
2. Division of Cancer Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan.
3. Department of Molecular Oncology, Graduate School of Medicine, Chiba University, Chiba 260-8670, Japan.
4. Department of Neurosurgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan.
5. Department of Experimental Pathology and Tumor Biology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya 467-8601, Japan.

 

DOI:10.1038/s41598-022-15656-y

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_220728en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 近藤 豊 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/cancerbio/