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生物学

2022.07.28

乳酸菌SBT2227株が睡眠を促進する効果を発見 ~睡眠に対する社会課題の解決への貢献が期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科附属ニューロサイエンス研究センターの石元 広志 特任准教授、神 太郎 研究員、村上 弘樹 研究員、大学院理学研究科の上川内 あづさ 教授らは、雪印メグミルク株式会社との共同研究により、雪印メグミルク(株)保有の乳酸菌ラクトバチルス プランタラム注1) SBT2227株(以下、SBT2227株)を食べることで睡眠が促進されることを、ショウジョウバエを用いた研究で発見しました。
睡眠不足とその蓄積である「睡眠負債注2)」は、心身の健康・パフォーマンスに悪影響を及ぼす社会課題の一つです。本研究チームは、この社会課題を解決する一つの手段として乳酸菌の持つ健康機能に着目し、研究を進めました。
そこで、単純な脳にヒトと共通する多くの行動・分子機構を備えているショウジョウバエを用いてSBT2227株を食べることで夜間開始時の睡眠量が増えること、寝入るまでの時間が短くなること、またこの効果は菌を加熱や破砕しても消失しないことを見出しました。さらにこの効果には、哺乳類のニューロペプチドY (NPY)と相同性を有する分子、ニューロペプチドF(NPF)の存在が必要であることを明らかにしました。
今後は、本研究成果を土台として、乳酸菌が睡眠を促進する仕組みの解明、さらには消費者の睡眠に対するニーズに合致する商品の実用化による社会課題の解決への貢献が期待されます。
本研究成果は、2022年7月15日付アメリカの出版社Cell Pressの科学雑誌「iScience」に掲載されました。

 

【ポイント】

・ヒトと共通の行動・分子機構等を多く持つショウジョウバエに、SBT2227株を食べさせて睡眠行動を詳細に評価した。
・SBT2227株は夜間開始時の睡眠を促進することが判明した。
・既存の腸内細菌叢はSBT2227株の睡眠促進作用に影響を及ぼさないことが判明した。
・有効成分は熱安定性を有する細胞内/細胞内膜成分だと推定される。
・ニューロペプチドF(NPF)がSBT2227株の睡眠促進作用に必要である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) ラクトバチルス プランタラム
研究開始当初はLactobacillus属に分類されていたが、2020年に分類が見直され、現在はLactiplantibacillus属に分類されています。そのため、正しくはラクチプランチバチルス プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)ですが、本研究では旧分類名で記載しています。

 

注2) 睡眠負債
睡眠不足が蓄積し、心身に悪影響が及ぶ可能性のある状態。日本の睡眠不足による経済損失は880~1380億ドルでGDPの1.86~2.92% に相当するとの試算結果もあります。

 

【論文情報】

雑誌名:iScience
論文タイトル:Biogenic action of Lactobacillus plantarum SBT2227 promotes sleep in Drosophila melanogaster
著者:Taro Ko1,2,3, Hiroki Murakami1,2,3, Azusa Kamikouchi1, and Hiroshi Ishimoto1,4
所属:1 Graduate School of Science, Nagoya University, Nagoya, Aichi 464-8602, Japan
2 Milk Science Research Institute, Megmilk Snow Brand Co. Ltd., 1-1-2 Minamidai, Kawagoe, Saitama, 350-1165, Japan
3 These authors contributed equally
4 Lead contact
下線:本学教員
DOI: 10.1016/j.isci.2022.104626
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004222008987?via%3Dihub

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 石元 広志 特任准教授

https://nsi.bio.nagoya-u.ac.jp/jp/groups/nn