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農学

2022.07.26

飼育した果樹害虫の共生菌は野生とは異なることを解明 ~キクイムシと菌類の動的な共生関係を示唆~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の姜 自如(ジャン ジル)研究員、梶村 恒 准教授らの研究グループは、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所との共同研究で、イチジク樹に穿孔して繁殖するアイノキクイムシ(養菌性キクイムシ注1)の一種)を人工飼料で育てると、共生する菌類の優占種が変わることを発見しました。
これまでに、本研究グループは、イチジクの枯死枝から採集したアイノキクイムシの雌成虫を調べ、大顎付近に菌嚢注2)が存在し、それを含む頭部からフザリウム・クロシウムという糸状菌が高頻度に検出されることを報告しました。また、同じ地域の本種の雌成虫を用いて人工飼料(他樹種の鋸屑に栄養素を添加して滅菌したもの)での繁殖に成功し、飼育を続けていました。しかし、この飼育個体群における共生菌の情報はありませんでした。そこで、本研究では、野生個体群と同様に、虫体を洗浄後、頭部・胸部・腹部に切り分けて、それぞれに存在する菌類の種類と優占度を比較しました。その結果、飼育個体群の頭部で最も優占したのは、ネオコスモスポラ・メタヴォランスでした。また、新たな系統のフザリウム属菌も見出されました。したがって、アイノキクイムシは営巣場所に適応して共生菌を転換した可能性があります。
本研究成果は、2022年6月30日付国際科学雑誌「Diversity」にオンライン掲載されました。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))(18KK0180)、基盤研究(B)(19H02994)、基盤研究(B)(20H03026)の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

・ アイノキクイムシ(ユーワラセア・インタージェクツス)は、イチジク樹に穿孔して繁殖する害虫である。
・ 本種は養菌性キクイムシで、雌成虫の頭部の大顎付近に菌嚢を備えている。イチジクの枯死枝から採集した野生個体群では、頭部からフザリウム・クロシウムという糸状菌が高頻度に検出された。
・ 同じ地域の本種の雌成虫を用い、人工飼料(他樹種の鋸屑に栄養素を添加して高温高圧滅菌したもの)で繁殖させることに成功した。様々な実験に供試し、累代飼育していた。しかし、この飼育個体群における共生菌の情報はなかった。
・ 野生個体群と同様に、飼育個体群の虫体を洗浄後、頭部・胸部・腹部に切り分けて、それぞれに存在する菌類の種類と優占度を比較した。
・ 飼育個体群からは、野生個体群の共生菌であるフザリウム・クロシウムは検出されず、その頭部で最も優占したのは、ネオコスモスポラ・メタヴォランスだった(図1)。また、DNA解析から、未記載系統(新種)のフザリウム属菌も見出された。
・ アイノキクイムシの共生菌相が野生個体群と飼育個体群の間で異なっていたことから、営巣場所に適応して共生菌が転換したと考えられた。
・ 昆虫と菌類の共生関係が動的であることが示唆され、新視点が得られた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 養菌性キクイムシ:
ゾウムシ科のキクイムシ亜科とナガキクイムシ亜科に属する甲虫のうち、菌類を栽培して食物とする習性を持つグループを指す。樹体内に坑道(トンネル)を掘り、その内壁に下記の菌嚢から共生菌を接種する。一部の種は、共生菌あるいは随伴菌に植物病原菌が含まれ、生立木を衰弱・枯死させる害虫となっている。

 

注2) 菌嚢:
昆虫が体内に菌類を貯蔵し、運搬する特別の器官を指す。嚢(のう)とは、袋という意味である。キクイムシの場合は、口の中、胸部の背面や側面、上翅の基部、脚の付け根など、その位置や形状が著しく多様化している。

 

【論文情報】

雑誌名:Diversity
論文タイトル:Fungal flora in adult females of the rearing population of ambrosia beetle Euwallacea interjectus (Blandford) (Coleoptera: Curculionidae: Scolytinae): Does it differ from the wild population?
著者:Zi-Ru Jiang (姜 自如:名古屋大学大学院生命農学研究科 研究員)、Hayato Masuya(升屋 勇人:森林総合研究所きのこ・森林微生物研究領域 室長)、Hisashi Kajimura(梶村 恒:名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授)
DOI: 10.3390/d14070535
URL: https://doi.org/10.3390/d14070535

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 梶村 恒 准教授
https://forest-protection-nu.jimdofree.com/