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複合領域

2022.07.27

太古の地球における酸素の起源 ~酸素発生はアミノ酸変換によって始まった~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学理学研究科の野口 巧 教授、嶋田 友一郎 特任助教(研究当時)、長尾 遼 特任助教(研究当時)、北島(井原) 智美 研究員、松原 巧 博士前期課程学生の研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センターの堂前 直 ユニットリーダーおよび鈴木 健裕 専任技師との共同研究により、光合成酸素発生酵素である光化学系Ⅱのアミノ酸変換が、太古の地球における酸素発生の起源となったという新たな仮説を提唱しました。
光合成による酸素発生は、植物やシアノバクテリア注2)の光化学系Ⅱタンパク質中の酸素発生系注3)において、光エネルギーによる水の分解として行われます。酸素発生系を構成するアミノ酸(アスパラギン酸またはグルタミン酸)を遺伝子レベルで別のアミノ酸に改変すると、それらのアミノ酸はタンパク質合成後に本来のアミノ酸に変換され、酸素発生が回復する現象を見出しました。
このタンパク質レベルでのアミノ酸変換によって、祖先型光化学系Ⅱにおいて最初の酸素発生系が形成され、太古の地球において光合成による酸素発生が始まったと推測されます。
本研究成果は、2022年7月21日付イギリス科学雑誌「Nature Communications」オンライン版で掲載されました。

 

【ポイント】

・太古に地球において光合成による酸素発生がいつ、どのように始まったのかは地球生命史における大きな謎である。
・酸素発生酵素である光化学系Ⅱ注1)において触媒部位を構成するアミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)を遺伝子レベルで他のアミノ酸に改変すると、タンパク質合成後に本来のアミノ酸に変換され、酸素発生能を回復する。
・祖先型光化学系Ⅱおけるアミノ酸変換が、太古の地球の光合成酸素発生の起源となった可能性がある。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)光化学系Ⅱ:
光合成電子伝達鎖の酸化側末端に位置するタンパク質複合体であり、光エネルギーを用いて水分子から電子を引き抜き、プラストキノンを還元してプラストキノールを生成する機能を持つ。D1, D2, CP43, CP47タンパク質など20以上のタンパク質サブユニットからなる。光化学系Ⅰとともに、光合成による光エネルギー変換の中心的役割を担う。

 

注2)シアノバクテリア:
酸素発生型光合成を行う原核生物。藻類や植物が持つ葉緑体の祖先であると考えられている。

 

注3)酸素発生系
光化学系Ⅱにおける水分解・酸素発生反応の触媒部位。マンガンクラスターとその配位子(D1-D170, D1-E189, D1-H332, D1-E333, D1-D342, D1-A344(C端), CP43-E354, 4つの水分子)、および近傍アミノ酸よりなる。S0状態からS4状態までの5つの中間状態の光誘起サイクルとして、水分子を酸素とプロトンに分解する。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Post-translational amino acid conversion in photosystem II as a possible origin of photosynthetic oxygen evolution
著者:Yuichiro Shimada, Takehiro Suzuki, Takumi Matsubara, Tomomi Kitajima-Ihara, Ryo Nagao, Naoshi Dohmae, Takumi Noguchi (本学関係者に下線)     
DOI: 10.1038/s41467-022-31931-y                                       
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-022-31931-y

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 野口 巧 教授
https://www.bio.phys.nagoya-u.ac.jp/index.html