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医歯薬学

2022.08.12

紫外線 DNA 損傷やキノコ毒 DNA 損傷によるゲノム不安定化を防ぐDNA 損傷トレランスは2つのサブ経路から構成される

名古屋大学環境医学研究所 ゲノム動態制御分野 / 大学院医学系研究科 分子機能薬学の金尾 梨絵 助教、益谷 央豪 教授らの研究グループは、広島大学、東海大学、京都大学との共同研究により、損傷を受けた DNA を複製する(DNA 損傷トレランス)機構には、色素性乾皮症の責任遺伝子産物である DNA ポリメラーゼ 注 1)・イータなどによる「損傷乗り越え DNA 合成」に加えて、ファンコニ貧血 注 2) の責任遺伝子産物である RFWD3 が関わる経路が重要であることを明らかにしました。ゲノム DNA に傷(DNA 損傷)が生じると、DNA 複製が阻害され、ゲノム不安定性の原因となり、細胞のがん化や細胞死につながります。このような事態を避けるため、細胞には「DNA 修復」と、損傷を残したまま DNA を複製する「DNA 損傷トレランス」というしくみが備わっています。DNA損傷トレランスには、損傷を乗り越えて DNA 合成を行うことのできる一群の DNA ポリメラーゼが
担う「損傷乗り越え DNA 合成」と「未同定の経路」があり、ゲノム安定性制御に重要である一方で、がん細胞の抗がん剤耐性に寄与しています。
DNA 損傷トレランスの制御には、DNA 上をスライドするリング状のタンパク質である PCNA のモノユビキチン化 注 3) が重要な役割を果たします。本研究では、PCNA のユビキチン化に依存したDNA 損傷トレランスは、損傷の種類に応じて適切な DNA ポリメラーゼが担う損傷乗り越え DNA 合成経路と RFWD3 の関わる経路とによって構成されることを明らかにしました。RFWD3 は先天性骨髄不全症候群のファンコニ貧血の責任遺伝子の一つであり、DNA 二本鎖間の架橋損傷の修復に関わります。しかし、興味深いことに、RFWD3 は鎖間架橋修復(いわゆる FANC 経路)とは独立の異なるメカニズムにより DNA 損傷トレランスで重要な役割を担うことを明らかにしました。
本研究成果は、2022 年 7 月 29 日付(日本時間 7 月 29 日 22 時)国際科学誌『Life Science Alliance』に掲載されました。
本研究は、科研費基盤研究 B (20H04335)、科研費挑戦的研究(萌芽)(21K19843)、科研費基盤研究 C (21K12238)、武田科学振興財団の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】

 

○ツキヨタケの毒性成分であるイルジン S 及びその誘導体のイロフルベンを用いることにより、新規の DNA 損傷トレランス機構を検出することに成功した。
○PCNA のユビキチン化に依存する DNA 損傷トレランスには、色素性乾皮症バリアント群 注 4)の責任遺伝子産物である DNA ポリメラーゼ・イータなどによる損傷乗り越え DNA 合成と、ファンコニ貧血責任遺伝子産物である RFWD3 の関わる経路の2つの主な経路があることを示した。
○紫外線損傷に対しては DNA ポリメラーゼ・イータ、イルジン S に対しては DNA ポリメラーゼ・カッパが損傷乗り越え DNA 合成を担い、RFWD3 はどちらの損傷についても重要な役割を担うことを示した。
○RFWD3 は鎖間架橋修復(FANC 経路)に関与するが、DNA 損傷トレランスでは、FANC経路とは独立して働くことを示した。
○本研究成果はゲノム安定性を維持するしくみだけなく、抗がん剤耐性のメカニズムの解明及びその克服法の開発になることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注 1) DNA ポリメラーゼ;
DNA 複製において、鋳型 DNA の塩基に相補的な塩基を持つヌクレオチドを重合し、新たな DNA鎖を合成する酵素。

 

注 2) ファンコニ貧血;
造血不全、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病などが見られる遺伝性疾患。原因遺伝子産物は二本鎖 DNA 間の架橋を修復するメカニズムに関与する。

 

注 3) ユビキチン化;
タンパク質修飾の一つでユビキチンというタンパク質が基質タンパク質に付加される。タンパク質分解の他、様々な生命現象に関わることが知られている。基質にユビキチン分子が一つ付加されることをモノユビキチン化と呼ぶ。

 

注 4) 色素性乾皮症バリアント群;
日光過敏症や高頻度の皮膚がんを主症状とする常染色体潜性遺伝疾患。8つある色素性乾皮症遺伝的相補性群のひとつで、紫外線損傷の修復に異常がある他の7つの相補性群とは異なり、紫外線損傷の複製に異常がある。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Life Science Alliance
論文タイトル:RFWD3 and translesion DNA polymerases contribute to PCNA modification-dependent DNA damage tolerance
著者:Rie Kanao 1,2, Hidehiko Kawai 3, Toshiyasu Taniguchi 4, Minoru Takata 5, and Chikahide Masutani 1,2*
所属名:
1 Department of Genome Dynamics, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University
2 Department of Molecular Pharmaco-Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine,
3 Department of Nucleic Acids Biochemistry, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University
4 Department of Molecular Life Science, Tokai University School of Medicine
5 Laboratory of DNA Damage Signaling, Department of Late Effects Studies, Radiation Biology Center, Graduate School of Biostudies, Kyoto University
DOI:10.26508/lsa.202201584

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Lif_220801en.pdf

 

【研究代表者】

環境医学研究所 益谷 央豪 教授
http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/genome/home.html