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医歯薬学

2022.08.10

摂食障害の病態にシナプス機能の障害が関与 ~日本人患者を対象としたゲノム解析の知見~

名古屋大学大学院医学系研究科精神疾患病態解明学の尾崎紀夫特任教授、医学部附属病院ゲノム医療センターの久島周病院講師、医学部附属病院化学療法部の今枝美穂病院助教、国立病院機構東尾張病院(名古屋医療センター併任)の田中聡副院長らの研究グループは、若年女性で有病率が高いことが知られる摂食障害を対象にゲノム解析を実施した結果、ゲノムコピー数変異(CNV)(※1)が発症リスクに関与することを見出しました。重症な摂食障害と診断された女性患者の 10%で、神経発達症(※2)との関連が知られるリスク CNV が見つかり、健常者よりも頻度が高かったことから発症リスクに関与することが示唆されました。患者で見つかった CNV の多くは、神経細胞のシナプス(※3)に関連した遺伝子に影響するものでした。遺伝子セット解析(※4)から、シナプス関連遺伝子群に患者 CNV が有意に多く集積することも確認し、シナプスの機能障害が摂食障害の病態に深く関与することを初めて明らかにしました。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト)の「統合失調症と自閉スペクトラム症の多階層情報の統合による病態解明」、脳科学研究戦略推進プログラム(発達障害・統合失調症等の克服に関する研究)の「統合失調症と自閉スペクトラム症のゲノム解析結果を活かした診断法・治療法開発」、革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクトの「精神疾患のヒトゲノム変異を基盤とする神経回路・分子病態に関する研究」の助成を受けて行われました。本研究成果は「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されます。

 

【ポイント】

○ゲノムコピー数変異(CNV)が摂食障害の発症リスクに関与することを初めて明らかにしました。
○摂食障害と神経発達症には遺伝的要因において共通性があることが示されました。
○神経細胞のシナプス機能の障害が摂食障害の病態に関与することが示唆されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(※1)ゲノムコピー数変異(CNV)
染色体上の一部のゲノム領域のコピー数が通常 2 コピーのところ、1 コピー以下(欠失)あるいは 3 コピー以上(重複)になる変化を指す。CNV によって、その領域に含まれる遺伝子のコピー数が変化し、ヒトの様々な疾患の発症に関与する。その代表例が統合失調症や自閉スペクトラム症などの精神疾患である。
(※2)神経発達症
小中学校入学前に、何からの発達特性を示すことで特徴づけられ、そのために日常生活や社会生活の困難をきたす状態。知的能力障害、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれる。
(※3)シナプス
2つの神経細胞同士をつなぐ接合部のこと。シナプスを介して、神経細胞から神経細胞へ情報が伝えられる(シナプス伝達)。シナプス伝達の効率は変化することが知られ(シナプス可塑性)、学習や記憶に深く関与していると考えられている。
(※4)遺伝子セット解析
共通の生物学的な特性(遺伝子機能など)に基づいて定義された遺伝子セットを用いた解析。患者の変異がどのセットに多くみられるかを統計学的な手法を用いて探索することで、疾患の分子病態にどのような生物学的機能異常が関わっているかを推定することができる。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Psychiatry and Clinical Neurosciences
論文タイトル:Contribution of copy number variations to the risk of severe eating disorders
著者・所属:
Itaru Kushima1,2,*, Miho Imaeda1,3, Satoshi Tanaka1,4,5, Hidekazu Kato1, Tomoko Oya-Ito1,6, Masahiro Nakatochi7, Branko Aleksic1, Norio Ozaki1,8
1. Department of Psychiatry, Nagoya University Graduate School of Medicine
2. Medical Genomics Center, Nagoya University Hospital
3. Department of Clinical Oncology and Chemotherapy, Nagoya University Hospital
4. National Hospital Organization Higashiowari National Hospital
5. The Clinical Research Center, National Hospital Organization Nagoya Medical Center
6. Department of Nutrition, Shubun University
7. Public Health Informatics Unit, Department of Integrated Health Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine
8. Institute for Glyco-core Research (iGCORE), Nagoya University
DOI:10.1111/pcn.13430

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Psy_220810en.pdf

 

【研究代表者】

 

医学系研究科 尾崎 紀夫 特任教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/seisin/