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農学

2022.08.12

森で「落ち葉」でなく「落ち根」を集める ~森林土壌への物質初期投入量の生態指標を確立~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の平野 恭弘 准教授、同大学大学院生命農学研究科の谷川 東子 准教授らの共同研究グループは、枯れて落ちたばかりの根である「落ち根」を森林内で採取する新しい手法を開発し、ヒノキ林では根系の先端に位置する根が毎月落ちることを世界で初めて実証しました。
森林では、「落ち葉」同様に根も枯れて落ち「落ち根」として、土壌を育て森林の物質循環を駆動しますが、「落ち根」を採取する手法は確立されていませんでした。
本研究では、ヒノキ林の細い根をヒノキから切り離すことなく、林内雨とガラスビーズを詰めた培養器を用いて現地で育成し、落ち根の毎月野外採取に成功しました。
本研究で開発された手法を用いて「落ち根」を採取することにより、落ち葉と同様に、根から土壌へどのように炭素や養分が投入し還元されていくのかという初期量を明らかにすることができ、これまでにない「落ち根」という生態学的な指標から森林の物質循環の推定精度の向上に貢献します。
本研究成果は、2022年8月8日付国際科学雑誌「Ecological Indicators」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・樹木の細い根は、葉と同じように枯れて落ち、「落ち根」注1)となることで土壌を育て、森林の物質循環を駆動する。
・「落ち根」を森林で直接回収する手法は、これまで確立されていなかった。
・ヒノキの細い根を樹木から切り離さずに森林で培養し、「落ち根」を直接回収する新しい手法を開発した。
・1か月以内に枯れ落ちた「落ち根」を培養器内から直接採取することに成功し、根系の先端に位置する根が毎月落ちることを、ヒノキ林において世界で初めて実証した。
・本手法で採取された「落ち根」の量は、森林の物質循環を解明する上で理解の進んでいない「根から土壌へ投入される初期炭素や養分量」という生態学的指標となる。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)落ち根:
直径2㎜以下の細い根は、成長開始後約1年から数年で枯死し脱落する。脱落した根は、土壌中で微生物の分解を受け、大気中や土壌へと還元されていく。専門的には落ち葉と落ち枝をリターとよび、新鮮な落葉・落枝を採取して土壌への投入量である落葉・落枝量(リター量)を算出する。本研究では、落ち葉に倣い、脱落したばかりの新鮮な根を、落ち根(細根リター)と定義した。

 

【論文情報】

雑誌名:Ecological Indicators
論文タイトル:Fine root litter traits of Chamaecyparis obtusa
著者:Gen Yoshida1, Ryuusei Doi1, Ryusei Wada1, Toko Tanikawa2, Yasuhiro Hirano1
(吉田厳1, 土居龍成1, 和田竜征1,谷川東子2,平野恭弘1)
1 名古屋大学大学院環境学研究科 2名古屋大学大学院生命農学研究科
DOI: 10.1016/j.ecolind.2022.109276
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1470160X22007488?via%3Dihub

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 平野 恭弘 准教授
https://www.eps.nagoya-u.ac.jp/~geosys/