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医歯薬学

2022.08.10

本邦初の大規模な重症複合免疫不全症(SCID)に対するTREC/KREC 新生児マススクリーニング検査 ~重症複合免疫不全症の新生児に対する早期診断と治療介入が予後を改善~

名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学の高橋 義行 教授、村松 秀城 講師、若松 学 助教(筆頭著者)、藤田医科大学医学部小児科学の伊藤 哲哉 教授、愛知県健康づくり振興事業団健診事業部の酒井 好美 検査課長らの研究グループは、2017 年から愛知県で出生した新生児に対して、全国に先駆けて重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency; SCID)※1 に対する新生児マススクリーニング検査を開始しました。2021 年までに、約 14 万例にスクリーニング検査を行い、2 例の SCID 患者を診断し、造血細胞移植※2 へとつなげることにより救命することができました。SCID は、さまざまな病原体から体を守る T リンパ球※3 がうまく働かないため、新生児期から重篤な感染症を発症する最重症の原発性免疫不全症です。根治的な治療法である造血細胞移植を早期に行われなければ、生後 1 年以内に亡くなります。海外では、T リンパ球が産生される際につくられる T-cell receptor excision circle(TREC)を用いた新生児マススクリーニング検査が広く行われていますが、本邦では SCID は未だ公的な新生児マススクリーニング検査の対象疾患に含まれていません。
また海外の一部の地域では、TREC 測定に加えて、B リンパ球※4 が産生される際につくられるKappa-deleting recombination excision circle (KREC)の測定や網羅的遺伝子解析を組み合わせた新生児マススクリーニング検査が行われていますが、その有用性について十分に評価されていませんでした。
そこで我々は、2017 年 4 月から 2021 年 12 月に愛知県内で出生した 137,484 例の新生児に対して、TREC と KREC を測定しました。結果、TREC もしくは KREC に異常値を 145 例に認め、精密検査として次世代シーケンサー(NGS)※5 を用いた網羅的遺伝子解析を行い、SCID2 例(68,742 人に 1 人)(IL2RG-SCID と細網異形成症)、T もしくは B リンパ球の欠損を伴う SCID 以外の免疫不全症(non-SCID PIDs)10 例(13,748 人に 1 人)を診断しました。2 例の SCID は、診断後すみやかに感染予防を行い、適切な時期に造血細胞移植を行うことにより、救命することができました。
今回の取り組みは、本邦で初めて行われた大規模な SCID に対する新生児マススクリーニング検査となります。網羅的遺伝子解析を組み合わせた TREC と KREC による新生児マススクリーニング検査は、SCID だけでなく、non-SCID PIDs の早期診断・治療につながり、臨床的にも非常に有用でした。この愛知県での取り組みが日本全国に広がり、将来的には公的な新生児マススクリーニング検査に組み込まれ、より多くの SCID 患者の命が救われることが期待されます。
本研究成果は「Journal of Clinical Immunology」(2022 年 7 月 28 日付電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○重症複合免疫不全症(SCID)は、生後早期に重篤な感染症を発症し、根治的な治療が行われないと生後 1 年以内に致命的となる免疫不全症です。

 

○愛知県で出生した新生児を対象に、全国に先駆けて 2017 年から SCID に対する新生児マススクリーニング検査を開始し、2021 年までに約 14 万例のスクリーニング検査を行いました。これまでに、2 例の SCID が早期診断され、適切な時期に造血細胞移植を行うことで救命につながりました。

 

○新生児マススクリーニング検査に網羅的遺伝子解析を組み合わせることで、SCID だけでなく他の免疫不全症の新生児の診断にもつながりました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 重症複合免疫不全症(SCID); T または B リンパ球が欠損し、重篤な感染症を発症する原発性免疫不全症。
※2 造血細胞移植;自分またはドナーから事前に採取した幹細胞を点滴で投与すること。
※3 T リンパ球;抗原を提示する細胞と連携し、免疫反応を調整するリンパ球。
※4 B リンパ球;抗原や T リンパ球を介した刺激により、抗体産生を行うリンパ球。
※5 次世代シーケンサー(NGS);数千から数百万もの DNA 分子を同時に配列決定できる技術。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of Clinical Immunology
論文タイトル:TREC/KREC Newborn Screening followed by Next-Generation Sequencing for Severe Combined Immunodeficiency in Japan
著者:Manabu Wakamatsu, MD, PhD1, Daiei Kojima, MD, PhD2, Hideki Muramatsu, MD, PhD1, Yusuke Okuno, MD, PhD3, Shinsuke Kataoka, MD, PhD1, Fumiko Nakamura4, Yoshimi Sakai4, Ikuya Tsuge, MD, PhD5, Tsuyoshi Ito, MD6, Kazuto Ueda, MD7, Akiko Saito, MD, PhD7, Eiji Morihana, MD8, Yasuhiko Ito, MD9, Naoki Ohashi, MD, PhD10, Makito Tanaka, MD, PhD5, Taihei Tanaka, MD11, Seiji Kojima, MD, PhD1, Yoko Nakajima, MD, PhD5, Tetsuya Ito, MD, PhD5, and Yoshiyuki Takahashi, MD, PhD1
所属名:
1Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Department of Pediatrics, Ogaki Municipal Hospital, Ogaki, Japan
3Department of Virology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Japan
4Department of Clinical laboratory, Aichi Health Promotion Public Interest Foundation, Nagoya, Japan
5Department of Pediatrics, School of Medicine, Fujita Health University, Toyoake, Japan
6Department of Pediatrics Toyohashi Municipal Hospital, Toyohashi, Japan
7Division of Neonatology, Center for Maternal-Neonatal Care, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
8Department of Neonatology, Aichi Children's Health and Medical Center, Obu, Japan
9Department of Pediatrics, Nagoya City University West Medical Center, Nagoya, Japan
10Department of Paediatric Cardiology, Chukyo Children Heart Centre, Japan. Community Health Care Organization Chukyo Hospital, Nagoya, Japan
11Department of Pediatrics, Japanese Red Cross Aichi Medical Center Nagoya Daini Hospital, Nagoya, Japan
DOI:10.1007/s10875-022-01335-0

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_220810en.pdf

 

【研究代表者】

医学系研究科 高橋 義行 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ped/