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生物学

2022.08.22

植物が細胞内にマグネシウムを貯蔵するしくみを解明 ~植物の新しいマグネシウム輸送体の発見~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の井上 晋一郎 講師、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の木下 俊則 教授らの研究グループは、九州大学の後藤 栄治 准教授、中部大学の鈴木 孝征 教授、名古屋大学大学院理学研究科の嘉村 巧 教授、岡山大学資源植物科学研究所の馬 建鋒 教授らとの共同研究で、植物が細胞内にマグネシウムを貯蔵するために重要となるマグネシウム輸送体タンパク質「CST2」を新たに発見しました。
マグネシウムは植物の生命維持に必要な必須栄養素の一つですが、根から吸収されたマグネシウムが植物細胞でどのように分配されているのか、よく分かっていませんでした。今回発見されたCST2は植物体のあらゆる細胞に発現し、細胞内の液胞と呼ばれる巨大な細胞内小器官にマグネシウムを輸送して貯蔵する働きを持っていました。この輸送体が欠損した植物は細胞質のマグネシウム濃度が適切に維持されず、正常に生育できませんでした。更に、植物はこのマグネシウム貯蔵システムを利用して気孔を開口させることも発見しました。
これらの結果は、植物のマグネシウム利用を理解する上で重要な知見を提供します。また、CST2は植物のマグネシウム含量を左右するため、将来的にはこの輸送体を用いた農業への応用も期待されます。
本研究成果は、2022年7月29日付イギリス学術雑誌「New Phytologist」電子版に掲載されました。

 

【ポイント】

・マグネシウムは、植物の生命維持に必要な必須栄養素の一つだが、根から吸収されたマグネシウムが植物細胞でどのように分配されているのか、よく分かっていなかった。
・植物が細胞内にマグネシウムを貯蔵するために重要となる、マグネシウム輸送体注1)タンパク質である「CST2」を新たに発見した。
・CST2は、細胞内の液胞注2)と呼ばれる巨大な細胞内小器官にマグネシウムを輸送して貯蔵する働きを持ち、この貯蔵システムが気孔注3)開口に重要であることが明らかになった。
・マグネシウム含量を高めた高栄養価の農作物の開発など、将来的な農業分野への応用が期待できる。


◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)輸送体:
細胞膜や細胞内小器官の膜のような、生体膜を貫通して存在するタンパク質であり、イオンを、生体膜を横切って移動させる働きを持つ。

 

注2)液胞:
成熟した植物細胞では、その体積の大部分(?90%)を占めることがある大きな細胞内小器官。さまざまな物質の貯蔵や、それによる細胞質のイオン環境の調節に重要な働きを持つ。

 

注3)気孔:
植物体表に無数にある穴。各々の気孔は一対の孔辺細胞に囲まれて形成され、孔辺細胞の膨張と収縮で穴の開口と閉鎖が調節される(図5)。

 

【論文情報】

雑誌名:New Phytologist
論文タイトル:A tonoplast-localized magnesium transporter is crucial for stomatal opening in Arabidopsis under high Mg2+ condition
著者:Shin-ichiro Inoue(本学教員、責任著者), Maki Hayashi(本学元研究員), Sheng Huang, Kengo Yokosho, Eiji Gotoh, Shuka Ikematsu(本学元研究員), Masaki Okumura(本学元研究員), Takamasa Suzuki, Takumi Kamura(本学教員), Toshinori Kinoshita(本学教員、責任著者), Jian Feng Ma
DOI: 10.1111/nph.18410
URL:https://nph.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/nph.18410

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 井上 晋一郎 講師
http://plantphys.bio.nagoya-u.ac.jp/