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医歯薬学

2022.08.23

von Willebrand 病(VWD)のユニークな病因遺伝子変異を同定 ―Type3 VWD の新たな分子病態が明らかに―

名古屋大学医学部附属病院 輸血部の松下正教授、鈴木伸明講師、医学系研究科 血液・腫瘍内科学の清井仁教授、岡本修一当時大学院生らの研究グループは、von Willebrand 病(VWD)の最重症型である Type3 VWD の発症に関わる新規遺伝子変異 VWF c8254G→A (p.Gly2752Ser)を同定し、その分子病態について検討を行いました。
von Willebrand factor (VWF)は主に血管内皮細胞で産生され、多量体(multimer)構造を呈する糖蛋白質で、血管損傷部位における血小板の粘着・凝集(一次止血)や流血中の第 VIII 因子の安定化作用を担っています。この VWF の量的・質的異常によって出血傾向を生じる病気が VWD です。
VWD は 3 病型に大別されますが、最重症型である Type3 は、「VWF の完全欠損」によって出血傾向を生じ、頻回の VWF 含有製剤の補充を余儀なくされます。松下教授らは、その出血症状の程度には幅があり、中には出血症状が軽度で VWF 含有製剤による頻回の補充を必要としない患者さんがいることに注目していました。
今回、その理由を調べるために、患者さんの協力を得て、遺伝子解析、血液と血管内皮細胞レベルにおける VWF 発現の状態を検討する機会を得ました。その結果 p.Gly2752Ser という新たな遺伝子変異を同定しました。
また、この遺伝子異常は、VWF 蛋白を構成する「ダイマー」という分子の形の成り立ちを阻害する可能性があり、p.Gly2752Ser では血液中に健常人の 1/100 程度の VWF が存在し、さらに血管内皮細胞レベルでもわずかに発現していることを確認しました。加えて、この遺伝子変異を強制発現させることで、変異 VWF についてより詳しい検討を行いました。
現在 type3 VWD は「VWF の完全欠損」と理解されていますが、今回の研究成果は、type3 VWDには「VWF の完全欠損」に収斂され得ない、より複雑で多様な病態が包含されている可能性を示すとともに、その病態が出血症状の程度に幅をもたらしていることから、治療に多様性を持たせる必要性を推察できるものです。
本研究は名古屋大学医学部生命倫理委員会の承認を得て行いました。(承認番号 2015-0391, 2016-0477)本研究成果は「Journal of Thrombosis and Haemostasis」誌(2022 年 8 月 20 日版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○本研究で、von Willebrand 病(VWD)の最重症型「type3 VWD」の新たな病因遺伝子変異である p.Gly2752Ser を同定しました。
○p.Gly2752Ser は VWF 分子のダイマー形成を阻害し、血液、血管内皮細胞レベルでの微量なVWF の発現を認め、Type3 VWD には「VWF の完全欠損」という既存の概念よりも複雑な分子病態が含まれることを確認しました。
○本研究結果は、type3 VWD 患者さんの止血治療(製剤選択と投与量、投与間隔を設定)を最適化するための重要な情報となることが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of Thrombosis and Haemostasis
論文タイトル:VWF-Gly2752Ser, a novel non-cysteine substitution variant in the CK domain, exhibits severe secretory impairment by hampering C-terminal dimer formation
著者・所属名:
岡本 修一 名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学専攻 血液・腫瘍内科学
田村 彰吾 名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 オミックス医療科学
大平 晃也 名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 オミックス医療科学
三田 直美 名古屋大学医学部附属病院 医療技術部 臨床検査部門
早川 友梨 名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 オミックス医療科学
向出 将人 名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 オミックス医療科学
鈴木 敦夫 名古屋大学医学部附属病院 医療技術部 臨床検査部門
兼松 毅 名古屋大学医学部附属病院 検査部
早川 文彦 名古屋大学大学院医学系研究科 総合保健学専攻 オミックス医療科学
勝見 章 国立長寿医療研究センター 血液内科
清井 仁 名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学
小嶋 哲人 愛知健康推進財団
松下 正 名古屋大学医学部附属病院 輸血部・検査部
鈴木 伸明 名古屋大学医学部附属病院 輸血部
DOI: 10.1111/jth.15746

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_220822en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 松下 正 教授