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生物学

2022.09.13

ナトリウムポンプのつくりかた H+輸送タンパク質をNa+輸送タンパク質に改造!?

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学細胞生理学研究センター/大学院創薬科学研究科の阿部 一啓 准教授は、アメリカ テキサス工科大学のパブロ アルティガス博士のグループと共に、H+を輸送する膜タンパク質(プロトンポンプ)を改造し、本来輸送することのないNa+を輸送させることに世界で初めて成功しました。この成果によって、膜能動輸送体によるイオンの認識機構に関して重要な知見が得られました。
我々のからだの細胞には、ナトリウムイオン(Na+)を輸送する膜タンパク質「ナトリウムポンプ」と、水素イオン(H+:プロトン)を輸送する「プロトンポンプ」があります。この2つの膜タンパク質は非常によく似ているにも関わらず、それぞれが輸送するイオンは厳密に区別されており、この理由は長い間不明でした。
本研究では、まず「プロトンポンプ」の結晶構造を決定しました。これを「ナトリウムポンプ」の構造と比較することでイオンの選択性に関わる4つのアミノ酸を特定し、実際にこれら4つのアミノ酸を変異させることでプロトンポンプを「改造」し、Na+を輸送する「人工的なナトリウムポンプ」を創り出すことに世界で初めて成功しました。この事実はアフリカツメガエル卵母細胞を用いた電気生理学的解析によって検証され、またクライオ電子顕微鏡による構造解析によってNa+が結合した状態を捉えることにより証明されました。
本研究成果は、2022年9月9日付国際科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

 

【ポイント】

・Non-gastricプロトンポンプの構造解析に世界で初めて成功し、胃プロトンポンプとは異なるH+排出機構を発見。
・プロトンポンプとナトリウムポンプの構造比較、それに基づいた変異体の機能解析から、Na+の配位に直接/間接的に寄与する4つのアミノ酸を同定。
・プロトンポンプを基にして人工的なナトリウムポンプを創り出すことに成功。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Structure and function of H+/K+ pump mutants reveal Na+/K+ pump mechanisms
著者:1†Victoria C. Young, 2†Hanayo Nakanishi, 1Dylan J. Meyer, 3Tomohiro Nishizawa, 2,4,5Atsunori Oshima, 1*Pablo Artigas, 2,4*Kazuhiro Abe
1Department of Cell Physiology and Molecular Biophysics, Texas Tech University、2名古屋大学細胞生理学研究センター、3横浜市立大学大学院生命医科学研究科、4名古屋大学大学院創薬科学研究科、5名古屋大学糖鎖生命コア研究所、共同第一著者、*責任著者(名古屋大学関係者に下線
DOI: 10.1038/s41467-022-32793-0
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-022-32793-0

 

【研究代表者】

細胞生理学研究センター(兼務 大学院創薬科学研究科) 阿部 一啓 准教授
http://www.cespi.nagoya-u.ac.jp/