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2022.09.13

お椀型に曲がった分子を積み重ねて平面化する ~超近接化による分子変形の実現~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の忍久保 洋 教授らの研究グループは、お椀型の反芳香族分子を創製し、固体中では三つの分子が積み重なることで、中央に挟まれた分子が平面構造に変形することを発見しました。更に、名古屋大学大学院理学研究科 フン クアン准教授との共同研究により、本来は不安定な平面構造が、分子間に働く相互作用によって安定化されていることを解明しました。
お椀型のπ共分子注3)は平面構造を経て高速に反転運動することが知られていましたが、この平面構造は不安定であり、それを観測することは困難でした。今回、ノルコロール白金錯体という新しいお椀型の反芳香族分子を用いることにより、お椀型構造だけでなく平面構造を観測することに成功しました。
このことは、ノルコロール分子どうしにお椀型構造を平面構造へと変形させるほど強い相互作用が働くことを示すものです。分子間の相互作用によって、π共役分子の超近接化が達成できれば、有機半導体注4)材料が高性能化され、より低電圧で駆動する有機トランジスタの実現につながると期待されます。
本研究成果は、2022年9月9日午前0時(日本時間)付アメリカ科学雑誌「Cell Reports Physical Science」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・ノルコロール注1)白金錯体というお椀型構造をもった反芳香族分子注2)を創製した。
・三つの分子が積み重なることで中央の分子が本来は不安定な平面構造へと変形した。
・平面構造が分子間相互作用によって安定化されていることを解明した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ノルコロール:
ポルフィリンに類似した構造をもつ反芳香族分子。ノルコロールの中心部に金属原子を挿入することができ、今回の分子は白金原子をもっている。

 

注2)反芳香族分子:
芳香族化合物と同様、多くの二重結合がつながった環状構造をもつ有機化合物であるが、芳香族化合物とは二重結合の数が異なるため、その性質も芳香族化合物とは大きく異なる。

 

注3)π共役分子:
多くの二重結合がつながった環状構造をもつ有機化合物。光を吸収したり発光したり電気を流したりする性質をもつ。有機トランジスタ、有機太陽電池、有機ELにおいて本質的に重要な有機材料。

 

注4)有機半導体:
半導体特性を示すπ共役分子。

 

【論文情報】

雑誌名:Cell Reports Physical Science
論文タイトル:Planarization of a Bowl-Shaped Molecule by Triple-Decker Stacking
(三重積層によるお椀型分子の平面化)
著者:Hiroyuki Kawashima (名大院卒), Norihito Fukui (名大講師), Quan Manh Phung (名大准教授), Takeshi Yanai (名大教授), and Hiroshi Shinokubo (名大教授)
DOI: 10.1016/j.xcrp.2022.101045 
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666386422003393?via%3Dihub

 

大学院工学研究科 忍久保 洋 教授
http://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic1/index.html