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医歯薬学

2022.09.14

若齢骨髄移植による老化促進マウス prone 10 モデルにおける老化に伴う筋萎縮の改善効果

名古屋大学大学院医学系研究科地域在宅医療学・老年科学の葛谷 雅文 教授(現在 名古屋大学名誉教授、名鉄病院病院長)、ヒューマンライフコード応用細胞医療学講座の成 憲武 特任教授(現在 延辺大学教授)、名古屋大学未来社会創造機構ナノライフシステム研究所の井上 愛子 特任講師らの研究チームは、若齢骨髄移植(Young bone marrow transplantation:YBMT)により加齢に伴う骨格筋の萎縮および筋機能低下を改善させることを見出し、そのしくみを明らかにしました。
YBMT は、血管新生を促進することが先行研究で示されています。しかし、骨髄由来幹細胞の数や機能は加齢によって変化し、加齢動物における細胞治療による筋肉の改善効果は限定的であることが報告されています。
本研究では、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)スーパーファミリー※1 の一つであり、様々な細胞機能を制御している増殖分化因子-11(GDF-11)※2 に着目し、YBMT による骨格筋量および筋機能低下に対する予防効果とその機序を、老化促進モデルマウス(SAMP10)※3 を用いて検証しました。
YBMT によって、GDF-11 血中濃度が上昇し、骨格筋におけるアポトーシス(細胞死)の抑制と、骨格筋タンパク質合成と細胞増殖の促進と、ミトコンドリア生合成の促進による機能不全の改善と、骨髄由来筋前駆細胞が骨格筋に誘導されることか明らかになりました。
本研究結果により、加齢に伴う骨格筋の萎縮・再生能および筋機能低下を改善することか明らかになり、サルコペニア 発症のメカニズムの解明および予防法の開発につながるものと期待されます。
本研究成果は、「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」(2022 年 9 月 5 日の電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○若齢骨髄移植は、骨格筋の機能低下と形態変化を改善した。
○若齢骨髄移植は、筋肉細胞の減少を防ぎ、その再生が促進された。
○若齢骨髄移植は骨格筋のミトコンドリア機能不全を軽減させた。
○SAMP10(Senescence-accelerated mouse prone 10)マウスの若齢骨髄移植による骨格筋保護作用には増殖分化因子-11(GDF-11)Growth Differentiation Factor-11 シグナルが必要であることを明らかにした。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 トランスフォーミング成長因子βスーパーファミリー
トランスフォーミング成長因子β(transforming growth factor-β:tgf -β) と似た構造を有するタンパク質群。tgf –β とは、tgf のうち、分子量 12k〜15k のペプチドの二量体で、上皮成長因子のグループに属し、上皮細胞の増殖抑制、創傷治癒の促進などの活性がある。

 

※2 増殖分化因子-11 (GDF11:growth differentiation factor 10)
tgf -βの一種であることが知られている。GDF11 は多種の器官と組織に発現し、可逆的に細胞周期を停止させることにより発育過程を調節することができる。GDF11 は心臓、骨格筋、脳、骨格、血管などの多くの器官と組織の老化過程を遅延させることが示されている。

 

※3 老化促進モデルマウス(SAMP10:Senescence-Accelerated Mouse Prone 10)
老化促進マウス Senescence-Accelerated Mouse (SAM) は、1975 年京都大学の竹田俊男教授らにより、AKR/J 系マウスと未知の系統との交雑が生じたマウスコロニーから 確立されたマウス系統。促進老化・短寿命を示す P(Prone)系統と正常老化を示す R(Resistant)系統に大別される。
SAMP10 マウスは加齢とともに脳萎縮を自然発症し、脳萎縮を伴う学習・記憶障害・ 情動障害のモデルとして用いられる。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle
論文タイトル:Young bone marrow transplantation prevents aging-related muscle atrophy in a senescence-accelerated mouse prone 10 model
著者:Aiko Inoue1,2, Limei Piao3, Xueling Yue3, Zhe Huang4, Wenhu Xu3, Chenglin Yu3, Lina Hu5, Xiangkun Meng2, Hongxian Wu6, Takeshi Sasaki7, Kohji Itakura8, Hiroyuki Umegaki2, Masafumi Kuzuya1, 2*, & Xian Wu Cheng3,4*.
所属:
1. Institute of Innovation for Future Society, Nagoya University, Nagoya 464-8601, Aichi, Japan;
2. Department of Community Healthcare and Geriatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan;
3. Department of Cardiology and Hypertension, Jilin Provincial Key Laboratory of Stress and Cardiovascular Disease, Yanbian University Hospital, Yanji, Jilin, PR China;
4. Department of Human Cord Applied Cell Therapy, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan;
5. Department of Public Health, Guilin Medical College, Guilin, Guangxi, PR China;
6. Shanghai Institute of Cardiovascular Disease, Zhongshan Hospital, Fudan University, Shanghai, PR China;
7. Department of Anatomy and Neuroscience, Hamamatsu University School of Medicine, Hamamatsu, Shizuoka, Japan;
8. Division for Medical Research Engineering, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan
DOI:10.1002/jcsm.13058

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Cac_220913en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科/未来社会創造機構ナノライフシステム研究所 井上 愛子 特任講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/geriatrics/index20200813.html