TOP   >   生物学   >   記事詳細

生物学

2022.09.28

概日時計タンパク質を操作する ~悪性の脳腫瘍の治療に新たな分子標的~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の廣田 毅 特任准教授とサイモン ミラー 元研究員、南カリフォルニア大学(アメリカ)のスティーブ ケイ 教授、ITbMのフロハンス タマ 教授らの研究グループは、悪性の脳腫瘍であるグリオブラストーマの治療薬の候補が、概日時計を構成するタンパク質であるCRY2に選択的に作用することを発見し、その仕組みを明らかにしました。さらに、より強い効果をもつ化合物を見出すことにも成功しました。
グリオブラストーマは脳腫瘍のなかで最も予後の悪い難治性の悪性腫瘍で、新たな治療法の開発が望まれています。本研究から、CRY2が有力な分子標的であることが分かりました。現代社会における概日時計の乱れは、睡眠障害やがん、代謝疾患などの病気に繋がることが知られています。今後、グリオブラストーマだけでなく様々な病気とCRY2との連関が解明され、新たな治療法の開発に発展することが期待されます。
本研究成果は、2022年9月27日午前4時(日本時間)付アメリカ科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されました。

 

【ポイント】

・ 悪性の脳腫瘍のグリオブラストーマ治療薬の候補が、概日時計タンパク質のCRY2に選択的に作用することを発見した。
・ この化合物とCRY2の相互作用様式を解明し、選択性を生み出す仕組みを明らかにした。
・ 相互作用様式の解析から、より強い効果をもつ化合物を見出した。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences
論文タイトル:CRY2 isoform selectivity of a circadian clock modulator with anti-glioblastoma efficacy
著者:Simon Miller, Manish Kesherwani, Priscilla Chan, Yoshiko Nagai, Moeri Yagi, Jamie Cope, Florence Tama, Steve A. Kay, and Tsuyoshi Hirota
(本学関係者は下線)
DOI:10.1073/pnas.2203936119
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2203936119

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。名古屋大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させ、新たな学問領域であるストライガ、植物ケミカルバイオロジー研究、化学時間生物学(ケミカルクロノバイオロジー)研究、化学駆動型ライブイメージング研究などのフラッグシップ研究を進めています。ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行う「ミックス・ラボ、ミックス・オフィス」で化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所 廣田 毅 特任准教授
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/kay-hirota_group/