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数物系科学

2022.09.28

独自の非接触計測技術で小惑星リュウグウの試料の熱物性を分析 - リュウグウの形成過程から太陽系の成り立ちへつながる成果に貢献 -

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の長野 方星 教授、同環境学研究科の渡邊 誠一郎 教授らの研究グループは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」)物質計測標準研究部門 材料構造・物性研究グループの八木 貴志 研究グループ長、山下 雄一郎 研究グループ付および国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」)宇宙科学研究所 太陽系科学研究系の田中 智 教授とともに、小惑星リュウグウ(以下「リュウグウ」)注1)の表層から探査機「はやぶさ2」注2)が採取し持ち帰った粒子の熱拡散率注3)を計測し、その熱物性的特徴を明らかにしました
リュウグウの粒子の切断サンプルを、名古屋大や産総研で独自に開発した非接触熱拡散率計測技術で計測し、両機関で不確かさの範囲内で一致した熱拡散率を得ました。熱拡散率から求められた熱慣性注4)は、物質の熱しやすさや冷えやすさを表します。計算された熱慣性は、リュウグウの表層よりも3倍以上大きく、リュウグウ表層内には熱遮蔽効果を持つ多数の亀裂の存在が示唆されます。これらのデータは、リュウグウの形成のシミュレーションに用いられるほか、太陽系の成り立ちの解明につながることが期待されています。
 本研究成果は、はやぶさ2ミッション初期分析チームの石の物質分析チーム(チームリーダー=東北大学 中村 智樹 教授)の成果の一部であり、分析結果をまとめた論文が、2022年9月23日付アメリカ科学雑誌「Science」オンライン版に掲載されました。(https://www.jaxa.jp/press/2022/09/20220923-1_j.html

 

【ポイント】

・独自開発の技術で、リュウグウの粒子の熱拡散率を計測した。
・計測結果からリュウグウの粒子の熱慣性はリュウグウの表層に比べて約3倍高いことが明らかとなった。このことからリュウグウ表層内には熱遮蔽となる多数の亀裂の存在が示唆された。
・本計測結果はリュウグウの形成過程のシミュレーションに提供され、太陽系の成り立ち解明につながる第一歩に貢献。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)リュウグウ:
地球と火星の間を公転する軌道をもつ直径約900 mの小惑星。表面の岩石の中に有機物などを多く含むと考えられている「C型小惑星」の一つ(Cは炭素質を意味するCarbonaceousに由来)であり、太陽系が生まれた頃(今から約46億年前)の水や有機物が、今でも残されていると考えられている。

 

注2)はやぶさ2:
「はやぶさ2」は、「はやぶさ」後継機として小惑星の試料を回収する目的で2014年12月3日に打ち上げられた。2018年6月27日に小惑星リュウグウに到着し、表層のサンプルを採取して2020年12月に地球へ帰還した。

 

注3)熱拡散率:
温度分布の変わりやすさに関する物性値であり、単位はm2 s-1である。熱拡散率、密度、比熱容量の積が熱伝導率である。

 
注4)熱慣性:
熱伝導度、密度、比熱容量の積の平方根であり単位はJ m-2 s-0.5 K-1である。熱浸透率とも呼ばれる。2つの物質を接触させたときに物質間での熱エネルギーの流れやすさを支配する。例えば同じ0℃の熱慣性の高い物質(金属など)に触れたときはより冷たく感じ、低い物質(木材や樹脂など)ではあまり冷たく感じない。また物質の熱しやすさや冷えやすさにも関係する。

 

【論文情報】

雑誌名:Science
論文タイトル:Formation and evolution of carbonaceous asteroid Ryugu: Direct evidence from returned samples
著者:T. Nakamuraら計221名(名大関係者:H. Nagano, S. Watanabe, T. Ishizaki(現JAXA), R. Fujita, A. Abdulkareem, 産総研関係者:T. Yagi, Y. Yamashita)       
DOI: 10.1126/science.abn8671                                     
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn8671

 

【研究代表者】

https://www.eess.mech.nagoya-u.ac.jp/index.html