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医歯薬学

2022.10.06

体を隅々まで照らす新規生体光デバイス・システムを開発!:血管内治療技術を応用した光照射デバイス・システム(ET-BLIT)開発に成功 ~さまざまな光治療技術の臨床応用に道を切り開く~

名古屋大学大学院医学系研究科・最先端イメージング分析センター/B3 ユニットフロンティア長・高等研究院(JST 創発的研究支援事業 2020 年度採択者)の佐藤和秀 特任講師(最終責任著者、共同筆頭著者)と医療機器メーカーである朝日インテック株式会社(愛知県瀬戸市、以下 朝日インテック)の塚本俊彦 元研究員(筆頭著者)、下神学 主席研究員、らの研究グループは、産学連携共同研究として、心筋梗塞や脳梗塞の治療などに幅広く用いられている血管内治療技術(インターベンショナルラジオロジー;IVR) ※1 を応用した光照射技術の開発を行い、現状では光が届かない深部組織 へ の新規光照射システムおよびデバイス(ET-BLIT: Endovascular Therapy-Based Light Illumination Technology)の開発に成功しました。
近年、光を用いた医療技術開発が次世代の新規治療方法として脚光を浴びています。その中でも、2011 年にアメリカ国立がんセンター・衛生研究所(National Cancer Institute, National Institutes of Health )の小林久隆博士らにより報告された近赤外光線免疫療法(Near Infrared Photoimmunotherapy; NIR-PIT)が新規の治療法として注目されています。また、これらの細胞死機序は、本プレスリリース責任著者の佐藤特任講師らによって、光化学反応をもとにした新概念の細胞死であることが 2018 年に明らかにされています。この治療法は、これまでと異なる方法でがん細胞を標的破壊できることから、手術・放射線・化学療法・がん免疫療法につづく、“第 5 のがん治療”として期待されており、世界に先駆けて日本で 2020 年 9 月にがん細胞増殖に関わるがん標的タンパク質 EGFR※2 を高発現する再発既治療頭頸部がんに対して、承認を受けて保険適用されています。
近赤外線免疫療法では、がん細胞に集積した上記複合体に光を照射する必要があるため、光照射可能な組織を増やすことができれば、近赤外線免疫療法の適用を広げ、より多くのがん患者へ新しい治療技術を届けることができると期待されます。そこで本研究では、朝日インテックが長年蓄積した血管内治療技術に着目し、これまでの血管内治療デバイスに、さらに光照射システムを実装させることを目指しました。その結果、細い血管を経由して全身に到達可能な細径デバイスの開発に成功し、動物実験においては、血管の中からの光照射により、血管外の組織に高効率、高選択的、かつ安全に光を届けることに成功しました。本研究グル-プは、この光照射システムおよびデバイスをET-BLIT と名付けました。
本研究は、学術出版社 Cell Press と The Lancet から 共同発行されている医学医療科学誌「EBioMedicine」(2022 年 10 月 5 日付電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○光と薬剤、あるいは光のみをがんなどの治療に応用する研究開発は盛んに行われる一方、その開発の中心は光感応薬剤側が主となっており、臨床使用を考えた場合、光を確実に患部に届ける技術が求められている。
○第5のがん治療といわれる認可済みの近赤外光線免疫療法において、適応拡大を可能にする生体光デバイスが求められている。
○本研究では、心筋梗塞、脳梗塞の治療などに幅広く用いられている血管内治療の技術を基盤として、人の全身に張り巡らされた血管を経由して患部、特に体外からの光照射では全く届かないような組織に対し、安全で、効率よく光を届けるための新規システム、およびそのデバイス(ET-BLIT: Endovascular Therapy-Based Light Illumination Technology)の開発に成功した。
○ET-BLIT を用いた動物実験において、血管内から照射した光が、血管外組織に高効率で到達することを確認した。
○今後 ET-BLIT は、近赤外光線免疫療法や光線力学治療を始めとしたがん治療に加え、様々な光治療技術の臨床応用技術として貢献することが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 血管内治療技術(インターベンショナルラジオロジー;IVR):
X 線(レントゲン)や CT、超音波などの画像診断装置で体の中を透かして見ながら、細い医療器具(カテーテルや針)を入れて、標的となる病気の治療を行う低侵襲の治療法。代表的なものとして、狭心症や心筋梗塞など、心臓の血管(冠動脈)がコレステロールなどにより詰まったり狭くなったりすることで起こる疾患に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA: Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)がある。開胸することなく治療を行うことができ、患者にとっても侵襲性が低く、経済的負担も軽いことから、冠動脈疾患治療の主流となっている。
※2 EGFR:
がん細胞の表面に特異的に高発現しているタンパク質の一つ。このタンパク質を標的として結合する治療用の抗体薬が多数開発されている。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Ebiomedicine
論文タイトル:Inside-the-body light delivery system using endovascular therapy-based light illumination technology
著者・所属:
Toshihiko Tsukamotoa, Yuko Fujitaa, Manabu Shimogamia, Kenji Kanedaa, Takanari Setoa, Kotaro Mizukamia, Miyoko Takeia, Yoshitaka Isobeb, Hirotoshi Yasuib, Kazuhide Sato#,b,c,d,e,,*
aAsahi Intecc Co., LTD.; Global Headquarters, R and D Center; 3-100 Akatsukicho, Seto, 489-0071, Aichi, Japan.
bRespiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, 65, Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Nagoya, Japan.
cNagoya University Institute for Advanced Research, Advanced Analytical and Diagnostic Imaging Center (AADIC) / Medical Engineering Unit (MEU), B3 Unit, 65, Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Nagoya, Japan.
dFOREST-Souhatsu, CREST, JST, Tokyo, Japan
eNagoya University Institute for Advanced Research, S-YLC, Furo-cho, Chikusaku, Nagoya 464-8601, Nagoya, Japan.
# These authors contributed equally to this work.
*Correspondence
DOI:10.1016/j.ebiom.2022.104289

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Ebi_221006en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科/高等研究院(B3ユニットフロンティア) 佐藤 和秀 特任講師
https://quantum-photoimmunotherapy.jp/member/