国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の林 亮太 博士前期課程学生、谷川 東子 准教授、同大学院環境学研究科の平野 恭弘 准教授、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所の溝口 岳男 研究専門員は、北里大学の眞家 永光 准教授、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門の和穎 朗太 上級研究員らとともに、樹木から土壌への資源投資が、必ずしも“養分保持機能に有効な土壌有機物”を増やすわけではない理由を解明しました。
樹木の「落ち葉」や「落ち根注1)」は地表もしくは地中で微生物により分解され、一部は土壌有機物になります。「落ち根」は分解されにくい性質のため、土壌有機物の素(もと)として注目を集めています。マイナスの電気を帯びている土壌有機物は、プラスの電気を帯びているカルシウムイオンなどの養分を保持する力(CEC注2))を発揮します。私たちは先行研究において、「酸性度の高い痩せたスギ人工林の土壌は、時間と共にますます痩せて酸性になる」という酸性化スパイラル現象と、そのような林分では細根量が増えること、さらに土壌有機物量も増えること、しかしCECは向上しないことを見出しました。今回、土壌有機物が増えてもCECが高まらない理由は、痩せた土壌では、CECに有効な“鉱物と親和している有機物”が増えなかったためであることを明らかにしました。
本研究は「スギという樹木が、どのような土壌環境に反応し、さらにその影響によって土壌はどのように作りかえられていくのか?」を描き出しました。この知見は、昔から林業の現場で受け継がれてきた叡智“適地適木注3)”を科学的に支持し、植栽時に樹種を選択する場面で有用な情報を提供します。
本研究成果は、2022年9月5日付ドイツの出版社Springerの国際学術誌「Plant and Soil」にてオンライン掲載されました。
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注1)落ち根:
落葉期になると、葉が持つ養分の一部が樹木本体に引き戻され、葉の葉柄部分には樹体と切り離す離層という組織が形成される。このようにして落ちた葉のことを「落ち葉」と学術的には呼ぶ。一方、細根に関しては、養分の引き戻しや離層形成について不明な点が多いため、「落ち根」と一律には表現しがたい面もあるが、ここではわかりやすく、枯れて土に還る根のことを「落ち根」と呼ぶ。
注2)CEC(陽イオン交換容量):
単位重量あたりの土壌がカルシウムやマグネシウムなどの塩基類を吸着できる最大の量。植物や微生物の生育に必要な養分を補足する土壌の機能のひとつ。
注3)適地適木:
土壌に適した樹種を植えることを推奨する知恵。例えば「尾根マツ、谷スギ、中ヒノキ」という句は、乾燥に強く痩せた土地でも生育の良いマツは尾根部に、水分が多く肥沃な土壌を好むスギは谷部に、斜面中部にはヒノキを植えることを推奨している。
掲載紙:Plant and Soil
論文タイトル:An increase of fine-root biomass in nutrient-poor soils increases soil organic matter but not soil cation exchange capacity(痩せた土壌における細根量の増加は土壌有機物を増加させるが、土壌の陽イオン交換容量を増加させない)
著者:Ryota Hayashia, Nagamitsu Maieb, Rota Wagaic, Yasuhiro Hiranod, Yosuke Matsudae, Naoki Makitaf, Takeo Mizoguchig, Ryusei Wadad, Toko Tanikawaa, g(林亮太a, 眞家永光b, 和穎朗太c,平野恭弘d, 松田陽介e, 牧田直樹f, 溝口岳男g, 和田竜征d, 谷川東子a, g)
a, 名古屋大学大学院生命農学研究科; b, 北里大学獣医学部; c, 農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門; d, 名古屋大学大学院環境学研究科; e, 三重大学大学院生物資源学研究科; f, 信州大学理学部; g, 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所
DOI: 10.1007/s11104-022-05675-z
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s11104-022-05675-z
大学院生命農学研究科 谷川 東子 准教授
https://sites.google.com/view/plant-soil-nu