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生物学

2022.11.17

鳥の羽ばたき推進力の指標を確立 ~恐竜から鳥類へ、羽ばたきの起源を推定~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学環境学研究科博士後期課程学生の明田 卓巳と名古屋大学博物館の藤原 慎一 講師は、鳥類の烏口骨という骨の折れ曲がりにくさ(強度)が、鳥類の多様な羽ばたき方を反映していることを示しました
鳥類が飛翔するには、揚力を得る翼をもつことが条件のひとつですが、羽ばたきによって推進力を得る能力も重要な条件になります。恐竜から進化する過程で、いつから翼を羽ばたかせ、飛翔に用いるようになったのかは、いまだ解明されていません。
本研究では、現生の鳥類209種の烏口骨の強度(断面係数)の計測により、羽ばたき能力のある鳥類が、ない鳥類に比べて烏口骨の強度がはるかに大きいことがわかりました。さらに、鳥類の様々な羽ばたき方に合わせて、烏口骨の強度も多様に変化することもわかりました。このことから、烏口骨の断面係数が、羽ばたき能力の指標となることが明らかになりました。また、この指標を用いれば、恐竜から鳥類への進化の、羽ばたき運動の起源を解明できるかもしれません
この研究成果は2022年11月16日午後2時(日本時間)付イギリス科学雑誌「Journal of Anatomy」オンライン版に掲載されました。
 

【ポイント】

・鳥類の飛翔には、揚力注1)を生むための翼の他に、羽ばたき運動による推進力が必要。
・恐竜注2)から鳥類への進化において、推進力としての羽ばたき運動がいつ頃行われるようになったのかは、まだ明らかになっていない。
・鳥類の烏口骨(うこうこつ)注3)は、羽ばたき運動を行うための強力な筋肉が働くときに、骨を変形させようとする力に対して、折れないように耐えている骨。羽ばたき能力のある鳥類は、羽ばたき運動による筋肉の動きに耐えるために、十分な強度の烏口骨を持っているはずである。
・現生鳥類209種の烏口骨を強度計測すると、鳥類の羽ばたき方の違いを反映していることがわかった。恐竜から鳥類への進化の過程で、羽ばたき飛翔が始まった時期を、より確からしく推定できる可能性がある。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)揚力:

流体の流れによって生まれる力のうち、流れに対する鉛直方向成分のこと。

 

注2)恐竜:
トリケラトプスとスズメの共通祖先と、その子孫たちのこと。ティラノサウルスや、ステゴサウルスなどがこれにあたるが、プテラノドンなどの翼竜は当てはまらない。

 

注3)烏口骨(うこうこつ):
胸部を構成する骨格の一部であり、体幹と前脚(翼)の根本をつなぐ骨。は虫類、鳥類にみられ、ヒトにはない。鳥が羽ばたくときに使う主要な筋肉である、むね肉(胸筋)やササミ(烏口上筋)が、鳥の骨格に力をかける際に、その負荷を一身に受ける骨。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of Anatomy (John Wiley and Sons)
論文タイトル:Coracoid strength as an indicator of wing-beat propulsion in birds
著者:Takumi AKEDA, Shin-ichi FUJIWARA
明田 卓巳(名古屋大学大学院環境学研究科), 藤原 慎一(名古屋大学博物館)
DOI:10.1111/joa.13788
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joa.13788

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館 藤原 慎一 講師