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医歯薬学

2022.11.18

腹腔外発生デスモイド型線維腫症に対する監視療法について、多数例での治療成績をアジアから初めて報告

名古屋大学医学部附属病院希少がんセンターの酒井智久(さかい ともひさ)病院助教、リハビリテーション科の西田佳弘(にしだ よしひろ)病院教授らの研究グループは、2000 年以降に当院で治療を行った腹腔外発生デスモイド型線維腫症※1 のうち 168 病変に対して、すぐには治療を開始しない active surveillance(監視療法、積極的経過観察)の治療成績を明らかにし、治療介入に至った危険因子を報告しました。
デスモイドは(筋)線維芽細胞様細胞の増殖性腫瘍であり、遠隔転移はしませんが、局所浸潤性が強く、部位によっては関節機能障害、麻痺、痛みなどで患者さんは苦しむことになります。手術による再発率が高いと報告されている一方、経過観察のみで縮小する可能性もあるため、近年治療の第一選択肢は手術でなく監視療法となっています。しかしその治療成績の報告は少なく、特にアジア諸国からの大規模な研究報告はありませんでした。
本研究の結果、腹腔外発生デスモイド型線維腫症において、5 年間の監視療法継続率は 54.8%でした。単変量解析の結果、CTNNB1 遺伝子※2S45F 変異※3 例(p=0.003)および頸部発生例(p=0.043)が監視療法を継続できず、積極的な治療介入へ至る危険因子であり、特に CTNNB1 S45F 変異例は多変量解析においても有意に積極的治療介入と関連していました(ハザード比 1.96、p=0.048)。一方で若年例や四肢発症、腫瘍径が大きな例など手術成績において再発と関連が報告されている因子については、監視療法の治療成績と有意な関連を認めませんでした。
本研究成果は、国際科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。(米国東部標準時間 2022 年 10 月 9 日付の電子版)

 

【ポイント】

○デスモイド型線維腫症に対する監視療法の多数例での治療成績を本邦で初めて報告した
○本研究の結果、腹腔外発生デスモイド型線維腫症における 5 年間の監視療法継続率は 54.8%であった
○CTNNB1 遺伝子 S45F 変異例、頸部発生例は積極的治療介入へ至るリスクが高かった

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 デスモイド型線維腫症:身体を支える組織である結合組織の中でも筋や筋膜から発生するとされている腫瘍で、(筋)線維芽細胞(細長い細胞)様細胞が増殖します。肺や骨などに遠隔転移はしませんが、 発生した部位から周囲に浸潤する能力が非常に高い腫瘍です。
※2 CTNNB1 遺伝子:細胞の増殖や分化などに関与する Wnt シグナル伝達経路の腫瘍な調節因子であるβ-catenin タンパクをコードする遺伝子です。デスモイド型線維腫症のおよそ90%に CTNNB1 遺伝子の変異を認めると報告されています。
※3 S45F 変異:上記 CTNNB1 遺伝子のコドン 45 におけるスレオニンがフェニルアラニンへ点変異を来す変異です。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Cancer Medicine
論 文 タ イ ト ル : Clinical results of active surveillance for extra-abdominal desmoid-type fibromatosis
著者:Tomohisa Sakai1 2, Yoshihiro Nishida1 2 3, Kan Ito1, Kunihiro Ikuta1, Hiroshi Urakawa1, Hiroshi Koike1, Shiro Imagama1
所属:
1 Department of Orthopedic Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan.
2 Rare Cancer Center, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.
3 Department of Rehabilitation, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan.

 

DOI:10.1002/cam4.5329

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Can_221118en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 西田 佳弘 病院教授
http://meidai-seikei.jp/