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化学

2022.11.21

分解性ビニルポリマーの開発 ~リビング重合による分解前後の分子量の制御が可能~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の内山 峰人 講師、上垣外 正己 教授は、国立大学法人東京工業大学物質理工学院の佐藤 浩太郎 教授らとともに、炭素―硫黄結合の可逆的活性化に基づくリビングカチオン重合を用いることで、分解前後の分子の長さが自在に制御可能な分解性ビニルポリマーの開発に成功しました。
近年、環境問題の観点から、分解性を有する高分子材料の開発が求められ、中でもビニルポリマー注7)は、主鎖が安定な炭素―炭素結合から成り、長期間にわたって使用できる一方、分解性に乏しいため、適度な分解性をもつビニルポリマーの研究開発が学術的にも工業的にも重要となっています。
本研究では、硫黄を有する環状化合物を開環重合注8)することにより生じる炭素―硫黄結合の間に、ビニル化合物を挿入する形でリビング重合を進行させることで、主鎖に分解性の炭素―硫黄結合をほぼ一定間隔で有するビニルポリマーの合成を可能としました。分解前後のポリマーの長さを制御できることで、ポリマー物性と分解物の制御が可能となり、環境適合型高機能性材料の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2022年11月12日付ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版に掲載されました。
 

【ポイント】

・七員環注1)の新規環状チオアセタール注2)を開発し、ビニルエーテル注3)とのリビングカチオン共重合により、主鎖にチオアセタール結合を有する分子量の制御されたポリビニルエーテルの合成に成功した。
・ビニルエーテルのリビングカチオン重合注4)は、主鎖中に生じたチオアセタール結合に挿入される形で進行し、チオアセタール結合間のポリビニルエーテルの長さも制御される。
・主鎖のチオアセタール結合は、金属塩や酸によって加水分解が可能であり、分解生成物として分子量の制御された低分子量のポリビニルエーテルを与えた。
・分解前のポリマーの分子量は、モノマーと開始剤注5)の仕込み比により、分解後のポリマーの分子量は、ビニルエーテルと環状チオアセタールの仕込み比により、それぞれ自在に制御可能である。

・異なるビニルエーテルを2番目のモノマーとして添加することで、分解性を有するマルチブロックポリマー注6)の合成も可能である。


◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)七員環:
化合物中に、環状に結合している原子が七つあるもの。

 

注2)チオアセタール:
R1O-C-SR2(R1, R2はアルキル基など)で表される化学構造。

 

注3)ビニルエーテル:
ビニル基にエーテル酸素が結合し、CH2=CHOR(Rはアルキル基など)で表されるビニル化合物。カチオン重合によりポリマーとなる。

 

注4)リビングカチオン重合:
正電荷(カチオン)の生長種が途中で失活しないで進行する重合反応で、ポリマーの分子量制御を可能とする重合反応。

 

注5)開始剤:
モノマーと反応して重合反応を開始する試薬。

 

注6)マルチブロックポリマー:
ブロックポリマーは異なるポリマー鎖がブロックとしてつながった共重合体。マルチブロックポリマーは、ブロックがたくさんつながった共重合体。

 

注7)ビニルポリマー:
ビニル化合物を重合することで得られるポリマー。ビニル化合物は二重結合をもつ分子で、一般にCH2=CHR(Rは置換基)で表される。

 

注8)開環重合:
環状の化合物が重合の生長種と反応して、環を開いてつながりポリマーが生成する重合反応。

 

【論文情報】

雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Synthesis and Degradation of Vinyl Polymers with Evenly Distributed Thioacetal Bonds in Main Chains: Cationic DT Copolymerization of Vinyl Ethers and Cyclic Thioacetals
(主鎖にチオアセタール結合が均等に配置されたビニルポリマーの合成と分解:ビニルエーテルと環状チオアセタールのカチオン交換連鎖移動共重合)
著者:M. Uchiyama(講師)、Y. Murakami(大学院博士前期課程学生(研究当時))、K. Satoh(東京工業大学教授)、M. Kamigaito(教授)
DOI: 10.1002/anie.202215021
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/anie.202215021

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 上垣外 正己 教授
http://chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/polymer2/index.html