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医歯薬学

2022.11.17

末梢肺病変に対する気管支腔内超音波断層法(R-EBUS)を用いた新たな気管支鏡検査の診断率予測モデルの構築

名古屋大学大学院医学系研究科呼吸器内科学(現講座長・石井 誠 教授)博士課程 3 年生・国立がん研究センター中央病院呼吸器内視鏡科レジデント(短期コース)の伊藤 貴康(筆頭著者)(現 名古屋大学医学部附属病院呼吸器内科 病院助教)、名古屋大学医学部附属病院呼吸器内科 岡地祥太郎病院助教(共同著者)、名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座呼吸器内科学 橋本 直純 准教授(共同著者)(現 藤田医科大学呼吸器内科学講座教授)、国立がん研究センター中央病院呼吸器内視鏡科・呼吸器内科 松元 祐司 医員(責任著者)、名古屋大学医学部附属病院先端医療開発部 西田 一貴 病院助教(共同著者)らの研究グループは、末梢肺病変に対する気管支腔内超音波断層法(R-EBUS: radial endobronchial ultrasound)を用いた気管支鏡検査の新たな診断率予測モデルを構築しました。
末梢肺病変(肺の異常影)を指摘された際、正確な診断を得るためには組織検査が必要になります。この組織検査は手術や CT ガイド下生検※1、気管支鏡※2 検査によって達成することが可能ですが、初期検査としてどの検査を用いるかは、それぞれの検査の診断率と合併症を総合的に判断することが必要です。現在、気管支鏡検査を行う際、楽に検査を受けて頂けるように、麻酔薬(鎮静剤や鎮痛剤など)を用いていますが、麻酔薬の効果は個人差があり、また、病変によっては気管支鏡検査による確定診断が得られず、患者さんに対して負担だけを残す結果となってしまうことがあります。しかし、末梢肺病変を呈する患者さんに対して現在よく用いられている R-EBUS という超音波検査を用いた気管支鏡検査を行う際、気管支鏡検査前に予測診断率を具体的に提示する(どの病変の診断率が低いかといったことを具体的に提示する)ことは困難でした。そこで、今回本研究グループは、国立がん研究センター中央病院呼吸器内視鏡科の約 1600 例近くのデータをもとに、気管支鏡検査前の因子のみから気管支鏡検査の診断率を予測するモデルを新たに構築しました。従来の R-EBUS を用いた気管支鏡検査の診断率は気管支鏡検査中の超音波プローブ※3 と病変との位置関係に強く相関し、プローブが病変内の位置でサンプリングが行われることが理想的です(診断率約 90%)。しかし、これでは気管支鏡検査をやってみないと診断率を提示できない欠点を有しています。今回新たに構築した予測モデルでは、気管支鏡検査前の因子のみから具体的に予測診断率を提示することで、患者さんを目の前にして、予測診断率が低い病変は気管支鏡検査以外の方法を初期検査として提示することが可能となり、末梢肺病変を扱う医師にとって有益です。また、この予測モデルを用いることで、気管支鏡検査で診断を得ることが困難と予測された患者さんに対して、最初から最適な診断方法を提供できる機会が増え、患者さんの負担軽減にもつながります。
本研究は、「Respiration」 2022 年 11 月 4 日に掲載されました。

 

【ポイント】

○末梢肺病変に対して気管支腔内超音波断層法を用いて気管支鏡検査を行う際、検査前因子のみで診断率を予測する新たなモデルを構築した。
○本予測モデルは該当症例が年間 1000 件を超える全国で最も多い気管支鏡件数を誇る施設でのデータをもとに開発された。
○末梢肺病変を呈する患者の初期検査として予測診断率が低い場合に気管支鏡検査以外の検査を提唱できる可能性を示唆した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 CT ガイド下生検:CT で身体の断面をみながら肺の病変に対して針を刺す検査です。
※2 気管支鏡:直径 3~6mm 程度の細くて柔らかいカメラで,胸の奥深くにある肺につながる気管・気管支の中をのぞく医療機器です。
※3 プローブ: 病変へ挿入して性状を調べるひものようなものです。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Respiration
論文タイトル:A diagnostic predictive model of bronchoscopy with radial endobronchial ultrasound for peripheral pulmonary lesions
著者:
Takayasu Ito1,2, Yuji Matsumoto1,3, Shotaro Okachi2, Kazuki Nishida4, Midori Tanaka1, Tatsuya Imabayashi1, Takaaki Tsuchida1, Naozumi Hashimoto2
所属:
1 Department of Endoscopy, Respiratory Endoscopy Division, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
2 Department of Respiratory Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3 Department of Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
4 Department of Biostatistics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

 

DOI:10.1159/000526574

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Res_221117en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 石井 誠 教授
http://www.med-nagoya-respmed.jp/index.html