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生物学

2022.12.21

細胞接着面切り替わりの分子・力学メカニズムを解明

生き物の体は、組織の秩序だった変形が繰り返されることで形づくられます。組織の変形を個々の細胞レベルでみると、細胞の数、かたち、配置の変化に分解されます。このうち、細胞接着面の組み替えによる細胞の相対位置の変化は細胞配置換えと呼ばれます。細胞配置換えは、細胞接着面の収縮、切り替わり、伸長の三段階で進行します。細胞接着面の収縮と伸長はミオシン(注1)が生成する力により駆動されることが分かっていますが、細胞接着面切り替わりのメカニズムには多くの謎が残されていました。
今回、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の井川敬介助教(研究当時:東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)は、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の杉村薫准教授らの研究グループとともに、細胞接着面の切り替え時にアドへレンスジャンクション(注2)からミオシンが剥離する構造 (rectangle-shaped myo-II cable: rsMC)を発見したことを足がかりに、細胞接着面切り替わりの分子・力学メカニズムを明らかにしました。ショウジョウバエ翅上皮細胞では、アドへレンスジャンクションとアクチンの間のリンカー分子として働くことが知られているJub/Ajubaが、細胞配置換え初期にミオシンが細胞接着面から剥離しないように働きます。加えて、トリセルラージャンクション(注3)の構成因子M6がJub/Ajubaの局在を減弱させることで、rsMCが形成されます。Jub/AjubaとM6は相互抑制関係にあり、両者の相互抑制のバランスとミオシンケーブルの物理特性はともに、細胞接着面の長さに依存しています。このように、幾何と力学、シグナリングが協調することで、細胞配置換えにおける細胞接着面の収縮と伸長に伴って、自発的に、細胞接着面の切り替えが起こることが明らかになりました。
本研究は、長年、ブラックボックスになっていた細胞接着切り替わりのメカニズムの一端を明らかにしました。細胞間接着の動態は生き物の体の維持から老化などのライフイベント、がんなどの病気と深く関わっており、本研究により明らかにされた細胞間接着制御メカニズムは、さまざまな生命現象において働いている可能性があります。

 

【ポイント】

◆ 細胞の配置換え過程でアドヘレンスジャンクションからミオシンが剥離する現象を足がかりにして、細胞接着面切り替わりの分子・力学メカニズムを明らかにしました。
◆ アドヘレンスジャンクションの構成因子Jub/Ajubaとトリセルラージャンクションの構成因子M6とが相互に抑制しあうことで、細胞接着面切り替わり時のミオシンの剥離と再接着が制御されることを明らかにしました。
◆ ミオシンケーブルの張力と細胞接着面への接着との競合を考慮した力学モデルを濡れの理論に基づいて構築し、細胞配置換えにおける細胞接着面の収縮と伸長に伴って、ミオシンの剥離と再接着が自発的に起こるメカニズムを同定しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(注1)ミオシン
分子モーターの一つ。アクチン細胞骨格とともにアクトミオシンを形成し、収縮力を生成する。アドヘレンスジャンクションを裏打ちするアクトミオシンは、細胞接着面を収縮させて、細胞の配置換えを駆動することが知られている。

 

(注2)アドヘレンスジャンクション
上皮細胞同士の接着を担う構造。膜貫通型タンパク質であるカドヘリンが主要な接着分子として働く。カドヘリンの細胞内ドメインは、Jub/Ajubaやα-cateninなどのリンカータンパク質を介して、アクチンと結合している。
 

(注3)トリセルラージャンクション
三つ以上の細胞が接着する細胞間接着構造。アドヘレンスジャンクションのような二細胞間の接着を担う構造とは構成分子が異なる。

 

【論文情報】

雑誌名:Current Biology
論文タイトル:Attachment and detachment of cortical myosin regulates cell junction exchange during cell rearrangement in the Drosophila wing epithelium
著者:Keisuke Ikawa*, Shuji Ishihara, Yoichiro Tamori, Kaoru Sugimura*
DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.11.067

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 井川 敬介 助教