国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の竹本 大吾 准教授、黒柳 輝彦 博士前期課程学生(研究当時)、小鹿 一 教授らの研究グループは、多犯性の植物病原菌が、植物が生産する多様な抗菌物質を識別することで、様々な植物に効率的に感染する機構を明らかにしました。
灰色かび病菌Botrytis cinereaは、トマト、ナス、ピーマン、イチゴ、ブドウ、バラ、洋ランなどをはじめ、ほとんど全ての野菜、果物、花卉(かき)に病害を引き起こす多犯性の植物病原菌であり、その感染による農作物の減収が、世界的に問題となっています。
本研究では、灰色かび病菌が多様な種の植物に感染できるメカニズムの一端を明らかにしました。また、灰色かび病菌が植物の抗菌物質を識別することで、トマト、ピーマン、ブドウに感染する際に異なる組み合わせの遺伝子群を活性化し、それぞれの植物種を発病させる際に適切な感染機構を発動していることを明らかにしました。
本研究成果により、発見された灰色かび病菌の感染に重要な機能を持つ、遺伝子を標的にしたRNA農薬を開発できれば、病原微生物の感染力だけを抑制することで、環境負荷が殆どない病害防除法が確立できると期待されます。
本研究成果は、2022年12月22日午前0時(日本時間)付国際学術誌「PNAS Nexus」誌電子版に掲載されました。
・灰色かび病菌は、ほとんど全ての野菜(トマト、ピーマン、ナスなど)、果物(イチゴ、ブドウ、ミカンなど)、花卉(かき)(バラ、洋ラン、シクラメンなど)に病気をおこす多犯性の病原菌で、その感染による被害が世界的に問題になっている。
・灰色かび病菌は、植物が免疫応答として生産する抗菌物質を識別する能力があることが示された。
・本研究により、灰色かび病菌がピーマンなどに感染する際に機能する遺伝子BcCPDH注1)やトマトなどに感染する際に機能する遺伝子BcatrB注2)などが特定された。
・これら遺伝子の働きを特異的に抑制する技術を開発することにより、環境微生物への影響がないオーダーメイド病害防除法の確立が期待される。
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注1)BcCPDH(Botrytis cinerea Capsidiol dehydrogenase):
灰色かび病菌のカプシジオール脱水素酵素。カプシジオールの解毒化酵素であり、ピーマン、タバコなどへの感染時に活性化される。
注2)BcatrB(Botrytis cinerea ATP-binding cassette transporter B):
リシチンを排出する灰色かび病菌のトランスポーター。灰色かび病菌のリシチン耐性を向上する。トマト、ジャガイモ、ブドウなどの感染時に活性化される。以前の研究で、レスベラトロールや農薬などへの耐性にも関与することが知られている。
雑誌名:PNAS Nexus
論文タイトル:Botrytis cinerea identifies host plants via the recognition of antifungal capsidiol to induce expression of a specific detoxification gene.
著者:Kuroyanagi T, Bulasag AS, Fukushima K, Suzuki T, Tanaka A, Camagna M, Sato I, Chiba S, Ojika M, Takemoto D
DOI:doi.org/10.1093/pnasnexus/pgac274
URL: https://academic.oup.com/pnasnexus/article/1/5/pgac274/6948007
大学院生命農学研究科 竹本 大吾 准教授
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