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生物学

2023.01.27

リボソームの異常な交通渋滞を選別するしくみを解明 ――高速AFMを用いて品質管理を司る複合体の動きを可視化――

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学理学研究科の内橋貴之教授(自然科学研究機構生命創成探究センター客員教授兼任)は、東京大学医科学研究所RNA制御学分野の松尾芳隆准教授、稲田利文教授らの研究グループと共同で、リボソーム注1の異常な交通渋滞を選別するしくみを解明しました。
リボソームは、mRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質を合成する「翻訳」を行なう装置であり、翻訳を停止したリボソームに後続のリボソームが衝突することによってリボソームの交通渋滞が起こります。細胞内でリボソームの交通渋滞が蓄積すると様々なストレス応答が誘導されます。一方で過剰なストレス応答を防ぐために、細胞はリボソームの交通渋滞を解消する品質管理機構を備えています。品質管理因子であるHel2はリボソームの衝突を識別し、異常翻訳の目印としてユビキチン注2を付加します。このユビキチン化が目印となり、RQT(Ribosome Quality control Trigger)複合体注3が衝突リボソームを強制的にサブユニット解離させることで交通渋滞を解消します。リボソームのユビキチン化は衝突リボソームの除去に必須ですが、それを識別する分子機構は十分に理解されていませんでした。
本研究グループは、生化学的手法を用いて衝突リボソームにK63型のユビキチン鎖が形成され、それをRQT複合体の構成タンパク質であるCue3とRqt4が識別することを発見しました。さらに、1分子レベルの動態を可視化できる高速AFM注4を用いて、RQT複合体の動き、特に運動性の高い天然変性領域の可視化に成功しました。
本成果は、品質管理機構の破綻が原因とされる神経変性疾患などの発症機序の理解や新規治療戦略の開発に繋がることが期待されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ“細胞の動的高次構造体”領域(課題番号:JPMJPR21EE、研究代表者:松尾芳隆)、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号:21H00267、21H05710、22H02606、松尾芳隆; 21H01772、21H00393、内橋貴之;19H05281、21H05277、22H00401、稲田利文)、日本医療研究開発機構(AMED-CREST 課題番号:20gm1110010h0002、研究代表者:稲田利文)などの支援を受けて行われました。
本研究成果は2023年1月10日(火)午後7時(イギリス時間10日午前10時)、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。

 

【ポイント】

* RQT複合体の構成タンパク質であるCue3とRqt4が、異常な衝突リボソームに形成されるK63型のユビキチン鎖を識別することを発見しました。
* 1分子レベルの動態を可視化できる高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いて、RQT複合体の動き、特に運動性の高い天然変性領域の可視化に成功しました。
* 本成果は、品質管理機構の破綻が原因とされる神経変性疾患などの発症機序の理解や新規治療戦略の開発に繋がることが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら


【用語説明】

注1 リボソーム:メッセンジャーRNA(mRNA)の持つ遺伝情報に従ってアミノ酸同士を結合させ、タンパク質を合成する装置。タンパク質とRNAから構成される巨大な複合体である。
注2 ユビキチン:ユビキチンは76アミノ酸からなる低分子タンパク質である。ユビキチンが他のタンパク質のリジン残基に共有結合で付加されると、タンパク質の活性を制御したりプロテアソームによって認識され分解されたりする。
注3 RQT複合体:RNAヘリカーゼと2種類のユビキチン結合タンパク質からなる複合体。衝突リボソームを除去する活性をもつ。
注4 高速AFM:探針と試料の間に働く原子間力を基に分子の形状をナノメートル(10-9 m)程度の高い空間分解能で可視化する走査型顕微鏡。

 

【論文情報】

雑誌名:「Nature Communications」
論文タイトル: Decoding of the ubiquitin code for clearance of colliding ribosomes by the RQT complex
著者:Yoshitaka Matsuo*, Takayuki Uchihashi and Toshifumi Inada*
*共同責任著者
DOI:10.1038/s41467-022-35608-4  
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-022-35608-4

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 内橋 貴之 教授
https://www.nagoya-d-lab.com/