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生物学

2023.01.30

植物の葉で光合成による炭素と窒素のバランスを保つ仕組みを解明! ~「架け橋」は細胞膜プロトンポンプ~

植物は光合成によって空気中の二酸化炭素を吸収し、糖をはじめとした炭水化物と酸素を産生します。産生された炭水化物は、細胞内で細胞膜プロトンポンプのスイッチをオンにすることが知られていましたが、その仕組みと生理的な役割は未解明でした。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)及び名古屋大学大学院理学研究科の木下(永縄)悟 研究員、木下 俊則 教授らの研究グループは、中部大学の鈴木 孝征 教授、名古屋大学大学院生命農学研究科の木羽 隆敏 准教授、榊原 均 教授らとともに、モデル植物のシロイヌナズナの葉における、炭水化物である糖のミミック注2)投与と、網羅的な遺伝子発現変動解析、安定同位体15Nラベル硝酸取り込み実験注3)によって、細胞膜プロトンポンプの活性化の仕組みと、植物の二大要素である炭素と窒素の協調的な利用の仕組みを明らかにしました。
本研究成果は、2023年 1月25日午前9 時1分(日本時間)付日本植物生理学会「Plant & Cell Physiology」のオンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・光合成で作られるエネルギー産生関連の炭素代謝物によって、細胞膜プロトンポンプ注1)のスイッチがオンになることが分かった。
・細胞膜プロトンポンプのスイッチをオンにするためのタンパク質ファミリーの中から新奇分子SAUR30を同定し、遺伝子発現量の変化を伴う応答と、より早い応答の2つの時間的に異なる制御機構が存在することが明らかになった。
・さらに、スイッチがオンになった細胞膜プロトンポンプは、細胞への硝酸(無機窒素化合物)取り込みを促進することを見出した。
・本研究で、植物の二大要素の炭素と窒素の協調的な利用の仕組みが明らかになった。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 
【用語説明】

注1)細胞膜プロトンポンプ:
ATPをエネルギーとして、細胞の内側から外側に水素イオンを輸送する一次輸送体。細胞膜を介して形成される水素イオンの濃度勾配は、さまざまな物質を輸送する二次輸送体の駆動力として利用されている。根においては、硝酸、リン酸、カリウムなど様々な無機養分の取り込みに関わることが知られている。

 

注2)糖ミミック:
ある糖分子と近い構造をした異なる糖であり、分子が存在しているかのように植物に感知させることが可能で、ある糖分子が誘発するシグナルをオンにできる。

 

注3)安定同位体15Nラベル硝酸取り込み実験:
質量数が異なる同位体窒素15Nでラベルされた硝酸を植物の葉に投与することで、どれだけの硝酸が取り込まれたかを測定する実験。自然界に多い14Nとは質量が異なるため、外部から与えた窒素と内部に元々存在していた窒素の量を元素質量の差で分離することができる。

 

【論文情報】

雑誌名: Plant & Cell Physiology
論文タイトル:Photosynthetic-product-dependent Activation of Plasma Membrane H+-ATPase and Nitrate Uptake in Arabidopsis Leaves.(シロイヌナズナ葉における光合成産物依存的な細胞膜プロトンATPaseと硝酸取り込み)
著者: Satoru N. Kinoshita, Takamasa Suzuki, Takatoshi Kiba, Hitoshi Sakakibara, Toshinori Kinoshita(木下(永縄) 悟、鈴木 孝征、木羽 隆敏榊原 均木下 俊則)(下線は本学関係者)    
DOI: 10.1093/pcp/pcac157
URL: https://academic.oup.com/pcp/advance-article/doi/10.1093/pcp/pcac157/7007205?searchresult=1

 

※【WPI-ITbM について】
http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012 年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の 1つとして採択されました。
ITbM では、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで 10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPI アカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院理学研究科 木下 俊則 教授
http://plantphys.bio.nagoya-u.ac.jp/