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工学

2023.01.25

磁場により体積が大きく膨張する新材料の発見 ――新たなアクチュエータ材料としての応用に期待――

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の窪田 雄希 大学院生、兼松 智也 大学院生(研究当時)、平井 大悟郎 准教授、竹中 康司 教授と東京大学物性研究所の岡本 佳比古 教授の研究グループは、東京大学物性研究所の矢島 健 助教と協力して、室温を含む幅広い温度領域において、磁場を加えることで体積が大きく膨張する新材料を発見しました。従来の磁歪材料と異なる新材料系に現れた、新しい発現機構に基づく巨大体積膨張であり、高性能なアクチュエータ(注1)材料として応用が期待されます。
磁場中で物体の形状や大きさが変化する現象は磁歪(磁場誘起歪)(注2)と呼ばれ、大きな磁歪を示す材料は、磁場により変位や駆動力を得る磁歪アクチュエータに実用されています。磁歪アクチュエータは、精密位置決め素子やマイクロマシンの駆動部、力や位置の変化のセンサ、超音波を用いたソナーや洗浄機といった、さまざまな機器に使用されてきました。これまで、磁歪材料として、鉄と希土類金属の合金であるTerfenol-Dなどの材料が開発されてきましたが、磁歪はいずれの場合にも強磁性体(注3)の「磁石」としての性質である自発磁化(注4)の発現に伴って生じ、それ以外で大きな磁歪を示す例はほとんど知られていませんでした。
岡本教授らは、クロム(Cr)のテルル(Te)化物の焼結体が、9 Tの磁場を加えたときに最大で1200 ppmに達する大きな体積の膨張を示すことを発見しました。この磁場中の大きな体積膨張は、-260 °Cから80 ℃に至る広い温度領域で現れること、磁場中で形状を保ったまま体積が変化すること、幅広い磁場範囲でほとんど磁場に比例することといった特徴をもち、磁場中の異方的な格子変形を利用した新しい機構に基づく磁場誘起歪現象であることが明らかになりました。本物質系が新しい磁歪材料として有望であることはもちろん、磁歪材料の候補物質の幅を大きく広げると期待されます。現在、アクチュエータ材料の分野では、電場で駆動するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が大々的に活用されていますが、有害な鉛を含むことが問題となっており、代替材料の開発が喫緊の課題となっています。この成果はその解決にもつながるものです。
この研究成果は、米国科学誌「Applied Physics Letters」電子版に2023年1月25日午前0時(日本時間)に掲載されました。

 

【ポイント】

◆クロムテルル化物において、磁場を加えたときに最大級の体積膨張を実現した。この体積膨張は室温を含む幅広い温度領域で現れ、広い磁場範囲で磁場に比例する特徴をもつ。
◆この磁場中体積膨張が、結晶格子の異方的な変形を利用した新しい機構によるものであることを解明した。
◆有害な鉛を含まない新材料であり、アクチュエータ材料開発の候補の幅を大きく広げた。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(注1)アクチュエータ
入力したエネルギーを物理的な運動(変位:物体の位置の変化、駆動力、振動など)に変換するデバイス。磁気エネルギーを利用した磁歪アクチュエータはその一種。現在、圧電効果(ピエゾ効果)を用いた圧電アクチュエータが精密位置制御などに広く使用されるが、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)と呼ばれる有害な鉛を含む物質が材料として使われていることが問題となっている。

 

(注2)磁歪(磁場誘起歪)
磁性体に磁場を加えたときに、外形がわずかに伸縮する現象。歴史的に磁歪とは、強磁性体における磁区が磁場により整列することによる歪のことを指したが、近年ではより一般的に、磁場により誘起される歪や体積変化現象の全てを指すこともある。

 

(注3)強磁性体
磁場のない状況においても、磁気モーメント(電子スピン)が一方向に揃う磁性体。自発磁化をもち、永久磁石となりうる。鉄やニッケルが代表例。

 

(注4)自発磁化
強磁性体において、磁気モーメント(電子スピン)が一方向に揃うことで自発的に形成される磁化。

 

【論文情報】

雑誌名:Applied Physics Letters
論文タイトル:Large magnetic-field-induced strains in sintered chromium tellurides
著者:Yuki Kubota, Yoshihiko Okamoto*, Tomoya Kanematsu, Takeshi Yajima, Daigorou Hirai, and Koshi Takenaka
DOI番号:10.1063/5.0134911
URL:https://doi.org/10.1063/5.0134911

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 竹中 康司 教授
http://mag.nuap.nagoya-u.ac.jp/