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医歯薬学

2023.02.28

子宮平滑筋肉腫における UCP2 を標的とした新たな治療戦略の開発

名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学の長尾有佳里 大学院生、横井暁 助教、梶山広明 教授、および国立がん研究センター研究所病態情報学ユニットの山本雄介 ユニット長、国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科の加藤友康 科長らの研究グループは、化合物ライブラリー※1 を用いた薬剤スクリーニングによって、子宮平滑筋肉腫におけるプロスシラリジン A とラナトシド C の抗腫瘍効果を明らかにし、網羅的な遺伝子発現解析を通して、新たな治療標的として UCP2※2 遺伝子を同定しました。これらの結果は、子宮平滑筋肉腫に対する新規治療戦略として期待されます。
子宮平滑筋肉腫は非常に予後の悪い悪性腫瘍であり、早期に手術を行ったとしても再発や転移を来たすことが多く、現在保険適応となっている薬剤への効果は非常に限られています。また、子宮悪性腫瘍全体の 1%程度と希少がんであるため、その病態に関する研究は道半ばです。本研究においては、臨床使用がすでに認められた 1,271 の化合物ライブラリーを用いた 3 段階の薬剤スクリーニングによって、強心配糖体であるプロスシラリジン A とラナトシド C が子宮平滑筋肉腫における抗腫瘍効果をもつことを発見し、それをマウスモデルでも検証しました。次世代シーケンス※3 により網羅的に遺伝子発現解析を行い、これらの薬剤投与によって UCP2 遺伝子の発現が抑制されたことが明らかになり、UCP2 の抑制に伴う活性酸素種の増加が細胞老化や DNA 損傷を引き起こし、子宮平滑筋肉腫の増殖抑制につながっていることを示しました。また、子宮平滑筋肉腫の患者組織では良性腫瘍である子宮筋腫の患者組織と比較して、UCP2 が過剰発現していることも明らかでした。これらの研究結果は、子宮平滑筋肉腫において UCP2 を標的とした新たな治療戦略の一つとなることが期待されます。
本研究成果は、学術雑誌「Pharmacological Research」の 2023 年 2 月 10 日付電子版に掲載されました。

 

【ポイント】

○ 既存薬スクリーニングを通して子宮平滑筋肉腫に効果が期待される新規治療薬候補が同定された。
○ 遺伝子発現を含む詳細な機能解析により、重要な機能をもつ治療標的分子 UCP2 を同定した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 化合物ライブラリー:保存された化学物質の集まり。化学構造、生理学的特性などの情報データベースとともに保存されており、創薬に用いられています。
※2 UCP2:Uncoupling protein 2。ミトコンドリア内膜に存在する陰イオン輸送体タンパク質であり、プロトン濃度勾配を解消する働きをもちます。
※3 次世代シーケンス:DNA や RNA といった核酸を網羅的にを解析する装置。2000 年代半ばに登場し、従来の方法より格段に高速に、膨大な量を、安価に解析できるようになりました。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Pharmacological Research
論文タイトル:Novel therapeutic strategies targeting UCP2 in uterine leiomyosarcoma
著者:
Yukari Nagao1, Akira Yokoi1,2,3, Kosuke Yoshida1,2, Mai Sugiyama4, Eri Watanabe1, Kae Nakamura1,5, Masami Kitagawa4, Eri Asano-Inami4, Yoshihiro Koya4, Masato Yoshihara1, Satoshi Tamauchi1, Yusuke Shimizu1, Yoshiki Ikeda1, Nobuhisa Yoshikawa1, Tomoyasu Kato6, Yusuke Yamamoto7, Hiroaki Kajiyama1
所属:
1. Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2. Institute for Advanced Research, Nagoya University, Nagoya, Japan
3. Japan Science and Technology Agency (JST), FOREST, Saitama, Japan
4. Bell Research Center, Department of Obstetrics and Gynecology Collaborative Research, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
5. Center for Low-Temperature Plasma Sciences, Nagoya University, Nagoya, Japan
6. Department of Gynecologic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
7. Laboratory of Integrative Oncology, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan

 

DOI: 10.1016/j.phrs.2023.106693

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Pha_230224en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 梶山 広明 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/obgy/index.html