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医歯薬学

2023.02.28

血液透析患者の大動脈弁の石灰化した弁尖の数は、その後の大動脈弁狭窄症と死亡を予測する 〜世界で初めて弁尖単位での石灰化進行の経過を報告〜

名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学の倉沢史門 助教、今泉貴広 特任助教、丸山彰一 教授らの研究グループは、医療法人偕行会グループ(名古屋共立病院 春日弘毅 副院長)との共同研究により、血液透析を受けている患者さんにおける、大動脈弁の石灰化*1 について、世界で初めて 3 つの弁尖*2 を区別して石灰化が時間とともに進行していく様子を解析しました。その結果、大動脈弁の3尖のうち何尖に石灰化が見られるか、すなわち「石灰化弁尖数」は、その後の大動脈弁狭窄症の発症および死亡を予測する、有用な評価指標であることを明らかにしました。
腎不全で血液透析を受けている患者さんは、心臓の大動脈弁に石灰化ができやすく、石灰化が進行すると弁の動きが制限され、大動脈弁狭窄症という重大な病気に至ります。そのため、石灰化の進行を抑える治療法の開発が望まれていますが、どのような患者さんが進行のリスクが高いか、またどの程度石灰化が進行しているかを見極めるための評価法も十分に確立されておらず、心臓超音波などの患者さんの負担のない方法で繰り返し評価できる方法を確立する必要がありました。
本研究グループは、約 1,500 名の血液透析患者さんに繰り返し実施された合計約 14,000 件の心臓超音波検査結果の解析を行い、大動脈弁の3つの弁尖を区別して石灰化の進行を評価しました。典型的には大動脈弁は 3〜4 年に1尖ずつ石灰化が生じていくことが明らかになりました。また、石灰化弁尖数が1尖増えるごとに、大動脈弁狭窄症の発症リスクが2倍以上高くなり、死亡リスクさえも約20%高くなるになることを発見しました。
石灰化弁尖数の評価は心臓超音波により、患者さんの負担なく簡単に実施できるため、実際の診療で大動脈弁硬化症の患者さんのリスク層別化のためにすぐに役立てることができます。さらに、大動脈弁石灰化の進行を抑えるための治療法の開発のための研究が世界中で行われていますが、その効果を見るときに石灰化弁尖数を評価項目にするといった研究面での活用も期待されます。
本研究成果は、2023年2月24日付オンライン版『 European Heart Journal - Cardiovascular Imaging』に掲載されました。

 

【ポイント】

○ 世界で初めて、大動脈弁の 3 つの弁尖を区別して石灰化が進行する様子を評価し、血液透析患者さんでは典型的には 3〜4 年に1尖ずつ石灰化が生じていくことがわかりました。
○ 大動脈弁の3尖のうち何尖に石灰化が見られるか、すなわち「石灰化弁尖数」は、その後の大動脈弁狭窄症の発症および死亡を予測することを明らかにしました。
○ 大動脈弁の石灰化弁尖数は、超音波により患者さんの負担なく簡単に評価できることから、診療における大動脈弁に石灰化を有する患者さんのリスク層別化や、臨床試験における評価指標のために活用されることが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 石灰化:カルシウムが体の組織のどこかに沈着した状態です。
*2 弁尖:心臓の血流を制御する弁を構成する 1 枚ずつの薄い組織で、大動脈弁には無冠尖、左冠尖、右冠尖の 3 つの弁尖があります。

 

【論文情報】

掲載誌:European Heart Journal - Cardiovascular Imaging
論文タイトル: Number of calcified aortic valve leaflets: natural history and prognostic value in patients undergoing haemodialysis
著者名・所属名:
Shimon Kurasawa,a,b Masaki Okazaki,a,c Takahiro Imaizumi,a,d Toru Kondo,e Manabu Hishida,f Nobuhiro Nishibori,a Yuki Takeda,a Hirotake Kasuga,g Shoichi Maruyamaa
a Department of Nephrology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
b Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
c Harold Simmons Center for Kidney Disease Research and Epidemiology, Division of Nephrology, Hypertension and Kidney Transplantation, University of California Irvine School of Medicine, Orange, California, USA
d Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
e Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
f Department of Nephrology, Kaikoukai Josai Hospital, Nagoya, Japan
g Department of Nephrology, Nagoya Kyoritsu Hospital, Nagoya, Japan

 

DOI:10.1093/ehjci/jead020

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Eur_230224

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 丸山 彰一 教授
https://www.nagoya-kidney.jp/