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医歯薬学

2023.02.15

筋萎縮性側索硬化症においてσ1 受容体がミトコンドリア形態を制御する仕組みを明らかに ~神経変性疾患におけるミトコンドリア異常化メカニズムの一端を解明~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学環境医学研究所の山中宏二 教授、渡邊征爾 助教、堀内麻衣 大学院生らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)においてσ1 受容体がミトコンドリア形態を制御するメカニズムを新たに発見しました。
ALS は運動神経細胞が選択的に変性し、進行性に全身の筋肉が萎縮する難病です。ALS では神経細胞のエネルギー源であるミトコンドリアが断片化して、その機能が低下することが知られています。しかし、なぜミトコンドリアが断片化するのか、詳しいメカニズムは不明なままでした。
本研究では、遺伝性 ALS の原因遺伝子産物であるσ1 受容体(※1)がミトコンドリアの膜上に存在する ATAD3A(※2)と相互作用することで、ミトコンドリアの断片化を抑制していることを明らかにしました。また、ALS のモデルマウスでは、σ1 受容体の機能が損なわれた結果、ATAD3A が異常化してミトコンドリアの断片化が促進していました。
ATAD3A の異常化はアルツハイマー病やハンチントン病など、他の神経変性疾患でも知られており、σ1 受容体と ATAD3A の相互作用を促進することで、今後 ALS を含めた神経変性疾患の新たな治療法開発につながると期待されます。
本研究成果は 2023 年 2 月 2 日付で「Neurobiology of Disease」誌にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

○ 筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む、多くの神経変性疾患ではミトコンドリアが断片化して機能が低下しますが、その分子メカニズムは不明なままでした。
○ 本研究では、ALS の原因遺伝子産物であるσ1 受容体がミトコンドリアに存在する ATAD3Aと相互作用し、ATAD3A の異常化によるミトコンドリア断片化を抑制することを発見しました。
○ ALS のモデルマウスではσ1 受容体の機能が失われて ATAD3A の異常化が亢進しており、これがミトコンドリアの断片化につながっていることが示唆されました。
○ σ1 受容体と ATAD3A の相互作用を促進することで、ALS を含めた神経変性疾患の新たな治療法開発につながると期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 σ1 受容体
他のタンパク質に結合して安定化する、シャペロン様タンパク質と呼ばれる分子のひとつ。主要な働きとして、小胞体からミトコンドリアへの Ca2+イオンの供給を安定化させてミトコンドリアでのエネルギー産生を補助することが知られている。活性化すると神経突起の伸長作用や認知機能の改善などが見られることから、うつ病や認知症においても治療標的分子として重要と考えられている。ALS16(若年性劣性遺伝性 ALS)だけでなく、遠位遺伝性運動性ニューロパチー(体幹から遠い部分の筋肉が萎縮する遺伝性疾患)の原因遺伝子でもある。

 

※2 ATAD3A
AAA ATPase domain-containing protein 3A と呼ばれるタンパク質でミトコンドリアの膜上に存在する膜タンパク質。ATAD3A 遺伝子上の変異は、精神運動発達遅滞や末梢神経障害を特徴とする Harel-Yoon 症候群(Harel et al. 2016 Am J Hum)や神経症状を呈する全身性硬化症(Lepelley et al. 2021 J Exp Med)の原因になっており、ATAD3A の機能は神経細胞の機能維持に重要と考えられる。

 

【論文情報】

掲載誌:Neurobiology of Disease
論文タイトル:Sigma-1 receptor maintains ATAD3A as a monomer to inhibit mitochondrial fragmentation at the mitochondria-associated membrane in amyotrophic lateral sclerosis
著者名・所属名:
Seiji Watanabe1, Mai Horiuchi1,2, Yuri Murata1, Okiru Komine1, Noe Kawade1, Akira Sobue1,3, Koji Yamanaka1,2,4,5
1. Department of Neuroscience and Pathobiology, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University
2. Department of Neuroscience and Pathobiology, Nagoya University Graduate School of Medicine
3. Medical Interactive Research and Academia Industry Collaboration Center, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University
4. Institute for Glyco-core Research (iGCORE), Nagoya University
5. Center for One Medicine Innovative Translational Research (COMIT), Gifu University Institute for Advanced Study

 

DOI:10.1016/j.nbd.2023.106031

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Neu_230215en.pdf

 

【研究代表者】

環境医学研究所 山中 宏二 教授
http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/mnd/