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生物学

2023.03.01

絶滅哺乳類の穴の掘り方を復元する指標を発見 ~動物の穴掘りのルーツと進化の過程を知る手がかりに~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の仲井 大智 博士後期課程学生、藤原 慎一 講師は、哺乳類の前肢骨の形から、穴を掘る能力があるかどうか、どんな穴の掘り方をしていたのかを定量的に評価する指標を提唱しました

今生きている哺乳類の前足を使った穴の掘り方は、大きく3種類に分けられ、それぞれ前足の動かし方が異なることが知られています。その一方、絶滅した動物の穴を掘る能力を復元するときには、肘を伸ばす動きのみに注目されて議論されてきました。
本研究では、300種以上の哺乳類の骨から、肩と肘を動かす筋肉のテコの比率を調べることによって、動物が穴を掘っていたのか、どのような掘り方をするのかを判別する指標を提唱しました。さらに6種の絶滅哺乳類の化石骨から、穴を掘っていたかどうか、どんな穴の掘り方をしていたのか調べた結果、種により異なる掘り方を採用していた可能性が明らかとなりました。
これらの指標を化石骨に応用することにより、絶滅した哺乳類の掘削能力と掘削方法をより正確に復元し、どのような行動生態をしていたのか知る手がかりになることが期待されます。さらに、掘削能力の獲得と、掘削方法の多様性がいつ、どのように進化したのかを知る手がかりになることも期待されます。
本研究成果は、2023年2月2日付イギリス科学雑誌「Journal of Anatomy」のオンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・これまで、絶滅した哺乳類が穴を掘っていたのかどうかを復元するのに、特定の前足の動きの力強さを反映する形態指標の有無だけで議論されてきた。
・前足を使って穴を掘る方法は今生きている哺乳類で3種類あり、それぞれ前足の動かし方が異なる。
・動かし方の違いで、肩について2つの筋肉、肘について3つの筋肉に分け、計5つの筋肉のテコ比注1)を300種以上の哺乳類の前肢骨から計測した。
・肩と肘を動かす5つの筋肉のテコ比が、掘削能力の有無や、穴の掘り方の違いを判別する指標になることが判明した。
・本研究で得られた指標により、絶滅哺乳類の穴の掘り方をより正確に復元することができ、掘削能力の獲得と掘り方の多様性の起源を知る手がかりになることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)テコ比(テコの原理):
支点、力点、作用点の位置関係によって、弱い力で強い力を生みだすことができる物理の原理。本文では、テコ比は関節から手首までの長さに対する関節から筋肉付着位置までの長さの比率を指し、穴を掘るときの前足の力強さを示す。

 

【論文情報】

雑誌名: Journal of Anatomy
論文タイトル: Fossorial mammals emphasise the forelimb muscle moment arms used for digging: New indices for reconstruction of the digging ability and behaviours in extinct taxa
著者: Daichi Nakai、 Shin-ichi Fujiwara
DOI: 10.1111/joa.13815
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joa.13815

 

【研究代表者】

名古屋大学博物館 藤原 慎一 講師
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