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医歯薬学

2023.03.22

加齢や筋ジストロフィー疾患に伴う筋萎縮改善の可能性 筋細胞ミトコンドリアへのカルシウムイオン(Ca2+)の流入阻害が有効

加齢に伴う骨格筋減少は高齢化社会における深刻な問題です。また筋ジストロフィー症は筋肉が徐々に弱っていく難病です。これら筋萎縮の原因として、加齢や疾患に伴うミトコンドリア障害の関与が知られており、またミトコンドリア障害に起因する細胞内 Ca2+濃度の上昇が筋崩壊をもたらすことをこれまで報告してきました。しかしミトコンドリア内 Ca2+濃度が筋細胞に及ぼす影響は不明でした。
そこで東北大学大学院生命科学研究科の東谷篤志教授と名古屋大学大学院医学系研究科の小林剛講師は、国際的な共同研究により、モデル生物線虫 C. elegans の筋細胞ミトコンドリアのCa2+濃度を可視化する実験系を導入し、加齢や疾患に伴うミトコンドリア Ca2+濃度と筋機能の関連を解析しました。その結果、加齢に伴うミトコンドリア Ca2+濃度の上昇が、ミトコンドリアの断片化と退縮を引き起こすことを見出しました。またミトコンドリアへの Ca2+流入の阻害により、ミトコンドリアの断片化と退縮が抑制され、加齢による筋機能低下と筋ジストロフィー疾患モデル線虫の病態が改善されることを見出しました。本成果は筋萎縮の予防薬開発につながることが期待されます。本研究成果は米国実験生物学会連合誌 The FASEB Journal に 2023 年 3 月 20 日付けで掲載されました。

 

【ポイント】

○ 加齢に伴う骨格筋量の減少は高齢化社会の大きな問題であり、早期老化が進行する難病の筋ジストロフィーにおいても、筋萎縮の予防・治療薬の開発が切に望まれています。
○ モデル生物を用いた解析により、筋細胞ミトコンドリアへの Ca2+流入を阻害することで、加齢に伴う筋機能低下が抑制され、さらには筋ジストロフィーの病態が改善されることを明らかにしました。
○ 加齢や疾患に伴う筋萎縮の予防薬開発の新たなターゲットを提示する成果です。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【論文情報】

タイトル:Increased mitochondrial Ca2+ contributes to health decline with age and Duchene muscular dystrophy in
C. elegans.
著者: Atsushi Higashitani*, Mika Teranishi, Yui Nakagawa, Yukou Itoh, Surabhi Sudevan, Nathaniel J Szewczyk, Yukihiko Kubota, Takaaki Abe, Takeshi Kobayashi*
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 教授 東谷篤志、

      名古屋大学大学院医学系研究科 講師 小林剛
筆頭著者:東谷篤志、寺西美佳
掲載誌:The FASEB Journal
DOI:10.1096/fj.202201489RR
URL:https://doi.org/10.1096/fj.202201489RR

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 小林 剛 講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/physiol2/