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医歯薬学

2023.03.10

ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)から成る高伸縮性吸収性モノフィラメント縫合糸

名古屋大学大学院医学系研究科人間拡張・手の外科学の村山敦彦 病院助教、米田英正 助教、山本美知郎 教授および個別化医療技術開発講座の平田仁 特任教授らの研究グループは、三菱ガス化学株式会社、株式会社河野製作所との産学共同研究において、新規生体吸収性材料であるポリヒドロキシアルカノエート(PHA)から成る高伸縮性吸収性モノフィラメント縫合糸の開発を目指しています。本研究によって、この試作品が既存製品にはない高い伸縮性と柔軟性を持っており、結び目が小さくて緩みにくいという特徴を持っていることが分かりました。また生体内で緩徐に加水分解されるため、引張強さが半減する期間はおよそ4か月であり、また縫合部周囲の炎症が生じにくい可能性があることが示唆されました。これらの結果より、この新規縫合糸は術者・患者の双方にとって手術時の創閉鎖におけるストレスを軽減する改良医療機器として期待されます。
吸収性モノフィラメント縫合糸は表面が平滑で組織通過性*1 が良く感染に強いですが、ブレイド縫合糸に比べて柔軟性に欠けるため操作性に難があり結び目が緩みやすいという課題があります。素材はポリ乳酸やポリグリコール酸などが用いられていますが、操作性や結節安定性 *2 という課題は解決されていません。3HB と 4HB の共重合体ポリマーである P(3HB-co-4HB)は微生物体内で合成される生分解性プラスチックで、高い生体適合性*3 を持つことから生物医学工学においても着目されている素材です。しかし、合成、精製、紡糸の各工程で技術的な壁があったため、これまで P(3HB-co-4HB)を用いた医療機器は開発されていません。本研究チームは技術的なブレークスルーでこれらを克服し、新しい素材を用いてこれまでにない特性を持った吸収性モノフィラメント縫合糸を作ることに成功しました。生体内で幅広い適用があり、特に脆弱な柔らかい組織を縫合する際にその効果を発揮することが期待されます。本共同研究は AMED の橋渡し研究プログラム、令和3年度公募・preB、研究課題名「新規生体吸収性材料 PHA を用いたモノフィラメント縫合糸の開発」の支援を受けています。本研究成果は、学術雑誌「Scientific Reports」の 2023 年 2 月 25 日付電子版に掲載されました。

 

【ポイント】

○ 本製品は新規生体吸収性材料であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)を用いた純国産技術による吸収性モノフィラメント縫合糸です。
○ 伸縮性、柔軟性、生体適合性に富み、結び目が小さく解けにくいという利点と、中長期的な生体吸収性を併せ持つ革新的な縫合糸です。
○ 既存の吸収性モノフィラメント縫合糸に代わる安全な製品であり、生体内に幅広く適用できる可能性があります。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 組織通過性 組織を容易に通過し周囲の組織を傷つけにくい性質。
*2 結節安定性 結び目(ノット)がほどけにくい性質。
*3 生体適合性 生体組織や器官と親和性があり、異物反応や拒絶反応などを生じない性質。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:A highly elastic absorbable monofilament suture fabricated from
poly(3-hydroxybutyrate-co-4-hydroxybutyrate)
著者:
Atsuhiko Murayama 1 , Hidemasa Yoneda 1 , Akira Maehara 2 , Noriyuki Shiomi 2 , Hitoshi Hirata 3
所属:

1Department of Human Enhancement & Hand Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Mitsubishi Gas Chemical Corporation Niigata Laboratory, Niigata, Japan
3Department of Personalized Medical Technology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan


DOI: 10.1038/s41598-023-30292-w


English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_230310en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 村山 敦彦 病院助教