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医歯薬学

2023.03.03

腎臓の機能不全を引き起こすマクロファージの制御因子を発見 ~線維化、癌、動脈硬化などの新たな治療法開発に繋がることが期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院創薬科学研究科の辰川 英樹 助教、篠田 祥希 博士後期課程学生、人見 清隆 教授らの研究グループは、同大学環境医学研究所の菅波 孝祥 教授、田中 都 講師との共同研究により、炎症を抑制するマクロファージの一種が、「タンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ」により誘導され、腎線維化を引き起こす病態発症メカニズムを新たに発見しました。
線維化は腎臓、肝臓、肺などの多種の臓器の慢性炎症や機能不全を引き起こす疾患ですが、現在のところ有用な治療法は確立されていません。また、マクロファージは、生体恒常性や炎症反応を制御する重要な細胞ですが、特定のマクロファージを標的とした疾患の治療法は開発されていません
本研究では、架橋酵素TG2が特定のマクロファージを制御し、腎線維化を誘導することを示しました。また、ヒトとマウスの種間に共通して、架橋酵素がアラキドン酸の酸化酵素の発現を制御し、線維化促進マクロファージの形質変化を誘導する新たな分子機構を発見しました。
本研究成果は、線維化ならびに癌や動脈硬化など、炎症の促進と抑制のバランスの破綻による種々の疾患の治療法開発に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2023年3月3日午前0時(日本時間)付イギリス科学雑誌「Cell Death & Disease」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・腎臓の線維化注1)に関わる特定のマクロファージの誘導に架橋酵素が重要な働きを持つことを示した。
・架橋酵素が骨髄細胞から動員されるマクロファージの形質を変化させることが分かった。
・ヒトとマウスの種間に共通して、架橋酵素がアラキドン酸注2)の酸化酵素の発現を誘導し、これが線維化促進マクロファージへの形質変化と腎線維化を引き起こすことを見出した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 線維化:
結合組織が異常増殖し、線維芽細胞により産生される細胞外マトリックス(コラーゲンなどの膠原線維)が過剰蓄積する現象。細胞外マトリックスの産生は障害組織の修復機構として必要であるが、慢性的な炎症疾患など長期に渡る障害が続くと、過剰に沈着して臓器が硬化し、重篤な機能不全を引き起こす。腎臓、肺、肝臓、心臓、皮膚、骨などの重要な臓器や組織で起こる疾患であるが、根本的な治療薬は開発されていない。腎臓の線維化に関連する慢性腎臓病の国内患者数は1,330万人(成人のおよそ7人に1人)に及ぶ。

 

注2)アラキドン酸:
多価不飽和脂肪酸の一つ。食事から摂取するリノール酸から合成され、必須脂肪酸に分類されている。体内のアラキドン酸は主に脂質二重膜に含まれるが、刺激に応じて遊離して代謝され、様々な生理活性脂質に変換されて生理的・病理的機能に関与する。

 

【論文情報】

雑誌名: Cell Death & Disease
論文タイトル: Tissue transglutaminase exacerbates renal fibrosis via alternative activation of monocyte-derived macrophages
著者: Yoshiki Shinoda1, Hideki Tatsukawa1, *, Atsushi Yonaga1, Ryosuke Wakita1, Taishu Takeuchi1, Tokuji Tsuji1, Miyako Tanaka2-4, Takayoshi Suganami2-4, Kiyotaka Hitomi1
*責任著者

1Cellular Biochemistry Lab., Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya University
2Department of Molecular Medicine and Metabolism, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University
3Department of Immunometabolism, Nagoya University Graduate School of Medicine
4Institute of Nano-Life-Systems, Institutes of Innovation for Future Society, Nagoya University

DOI: 10.1038/s41419-023-05622-5                           
URL: https://www.nature.com/articles/s41419-023-05622-5

 

【研究代表者】

大学院創薬科学研究科 辰川 英樹 助教
http://www.ps.nagoya-u.ac.jp/lab_pages/biochemistry/newpage2.html