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化学

2023.03.07

充放電中のイオンの濃度プロファイルを形状変化とともにナノスケールで可視化 ~デバイス材料の開発・オペレーション条件の最適化に貢献~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科/国立大学法人金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の高橋 康史 教授らの研究グループは、株式会社日立製作所の高松 大郊 主任研究員、金沢大学NanoLSIの福間 剛士 教授、NanoLSIの海外PIでインペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)のユリ コルチェフ教授との共同研究で、リチウムイオン電池を駆動した際に、正極や負極の表面に生じる、イオンの濃度プロファイルの変化をナノスケールで捉える技術を開発しました。
本研究では、先端に半径50 nmの開口を有するガラスナノピペット注1)を用いて、充放電中のイオン濃度の変化を、イオン電流の変化として局所的に計測する技術を開発しました。この手法は、ガラスナノピペットを特定の点において、その点の応答を捉えるだけでなく、走査型プローブ顕微鏡の位置制御技術を活用することで、3次元的なイオンの濃度プロファイルを、蓄電材料を駆動させた状態で評価することができます。実際に、リチウムイオン電池の負極に利用されるグラファイト注2)について、電位をスイープした際に生じるイオンの濃度変化を可視化することに成功しました。さらに、グラファイトの相転移に伴うナノスケールの体積変化を同時に捉えることに成功しました。この技術は、リチウムイオン電池のオペレーションや、セパレータ注3)や電池の構造の最適化に貢献できるだけでなく、腐食や触媒の評価にも活用することが期待できます。
本研究成果は、2023年2月27日付アメリカ化学雑誌「JACS Au」に掲載されました。

 

【ポイント】

・蓄電材料を駆動させた状態で、溶液中の空間的なイオン濃度プロファイルを可視化。
・充放電中のナノスケールの構造変化も同時にとらえることが可能。
・蓄電材料に限らず、腐食や触媒材料の評価への展開が可能。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ガラスナノピペット:
外径1.00 mm、内径0.58 mmのガラスキャピラリーを、専用の伸長装置を使って、加熱しながら引っ張ることで作製した先端開口半径が50 nm以下のピペット。

 

注2)グラファイト:
ダイヤモンド、石炭などと同様の炭素の結晶型の一つ。六角層状結晶構造を有しており、面内は強い共有結合で炭素間が結合しているが、層と層の間は弱い分子間相互作用力で結合している。

 

注3)セパレータ:
正極と負極の間に設置され、リチウムイオンを透過し、かつ正極と負極との接触を防ぐ(内部短絡防止)ことができる多孔質構造を持つ膜状の材料。

 

【論文情報】

雑誌名:JACS Au
論文タイトル:Correlative Analysis of Ion Concentration Profile and Surface Nanoscale Topography Changes using Operando Scanning Ion Conductance Microscopy
著者:Yasufumi Takahashi(名大教授), Daiko Takamatsu(株式会社日立製作所), Yuri Korchev(Imperial College London教授), Takeshi Fukuma(金沢大学教授)
DOI :10.1021/jacsau.2c00677
URL :https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacsau.2c00677

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 高橋 康史 教授
https://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/nanobio/